・心の灯火
あなたにとってはなんて事ない言葉だったなかもしれない。
それでも私にとっては唯一の希望で救いだった。
だから今まで頑張って来れたのに。
今はあなたのその言葉が絶望に感じるほど苦しくなってしまった。
駄目ね。やっぱ燃料は慎重に選ばないと。
じゃなきゃあなたごと燃やす羽目になっちゃったから。
・開けないLINE
2桁の数字がアイコンの横に並んでいる。
己の怠惰が原因なのは分かっているが、それでもたった1回のタップさえ後回しにしてしまう。
いっそ通知を消した方が早いのは分かっているが、なけなしの良心がそれを止めている。
……まぁ、それが余計にアプリを開く気力を奪っているのは確かだけど。
そうこうしているうちに通知の数字がまた1つ増えてしまった。
早く見た方がいいのは百も承知なんだけどなぁ。
「……急ぎのようなら通話で来るか」
今日も言い訳を呟くと、いつものようにYoutubeを開いた。
・不完全な僕
コイツは言葉が上手く喋れない。それどころか私が何を言ってるかも分かってない。
身体の作りも違うせいで歩き方も変だった。
オマケに皆が当たり前に出来ることが何一つできない。
しかしコイツは主である私への忠誠心が誰よりも大きかった。
「ご飯だよー」
毎日律儀に献上品を差し出す僕(しもべ)は今日も変な言葉を言っている。
全く。たまには私と同じ言葉を喋ってほしいものだ。
「今日もうにゃうにゃ言いながら食べてるなぁ。そんなに美味しいのかな、これ」
・香水
私、恋人の前では1番お気に入りの香水はつけたくないの。
大好きな香りを、いつ嫌な思い出に変わるか分からない人にあわせたくないの。
もちろん死ぬまで貴方の一番でいたいし、貴方の一番が私であって欲しい。
でも私の一番は嫌でも私。貴方だってそうでしょう?
だからこの香水は貴方の前では一生纏ってあげない。
せいぜい五番目くらいで我慢してね。
・言葉はいらない、ただ……
アンタが娘を愛してることはもう十分に分かったから、とりあえず今は仕事に集中してて。
娘の面倒はとうの昔から慣れっこなの。忙しいのもいつもの事。だから私の事は気にしないで。
それとそのぬいぐるみは娘じゃなくてお義母さんにあげて。きっと喜んでくれるでしょう。
遠慮?まさか。娘はもうおままごとなんてしてないのよ。今いくつだと思ってたの?
父親としての責任を果たしたい?なら適当な言葉や娘へのプレゼントより、払うべきものがあるでしょう。
それが分からないなら私たちのことはもう二度と考えないで。
いっそ無かったことにしてくれた方がまだマシだったから。