彼女の心臓は、まるで嵐の中の船のように、激しく鼓動していた。静かな夜の街角、薄明かりに照らされた彼女の顔は緊張でこわばり、周囲の音が遠ざかっていく。彼女は、彼に会うために選んだこの場所に立っていた。その瞬間、全てが期待と不安で満たされていた。心臓の音は、自身の存在を知らせるかのように、耳の奥で鳴り響いている。
彼の姿が見えると、胸の鼓動はさらに速まった。彼は、いつも通りのカジュアルな服装で現れ、彼女の目に映った瞬間、言葉を失った。その微笑みは、彼女が何日も考え続けてきた夢のようだった。自分があまりにも彼に惹かれていることを、自覚せざるを得ない。
「待たせた?」彼は軽やかに尋ね、彼女の緊張を和らげるように微笑んだ。しかし、彼女にはその言葉が心の奥に響き、強く胸を打った。「いえ、全然」と答える声は震え、おそるおそる飛び込んだ会話は、まるで彼女の心臓のリズムに合わせるかのように進んでいった。
彼との時間は、時間の流れを感じさせないほど心地良いものであった。彼が語る夢や目標、そして彼女が持つ想いを交わすたびに、彼女の心はさらなる高鳴りを覚えた。その鼓動は、ただの恋心ではなく、自分自身を見つけていく感覚に変わっていく。彼の視線が自分に向けられると、まるで周囲の全てが消えてしまったかのように感じられた。
不意に彼が彼女に近づき、彼女の手を優しく握った。その瞬間、彼女の心臓は鼓動を強め、全ての言葉を忘れさせた。彼の温かい手が彼女の心に触れ、その鼓動が共鳴したように思えた。「君といると、心が落ち着く」と彼が言ったとき、彼女はその言葉に思わず微笑んだ。まるで運命のように二人の鼓動が重なり合うことを、彼女は確信した。
しかし、心のどこかに不安もあった。彼が本当に自分を想ってくれているのか、これから先も続くのか、そんな疑問がどんどん膨らんでいく。彼女の心臓は緊張の渦の中で、愛と不安が交錯していた。だが、その瞬間にはただ一つの真実があった。彼と過ごす時間が、自分を輝かせているということ。
「私は、ずっとここにいたい」と思わず彼に告げた。彼は優しく彼女を見つめ、「僕もだ」と答えた。その言葉に、彼女のハートはさらに響き、胸の鼓動は希望で満たされた。彼らの時間は、まるで永遠のように感じられた瞬間だった。心臓の音は、ただ一つの真実を告げていた。愛しさと期待に満ちた鼓動。その鼓動こそが、彼女の人生を変えていく始まりなのだと信じることができた。
テーマ-【胸の鼓動】
踊るように舞う白鳥。その一匹は彷徨っているように見える。そして一匹でいることを喜んでいるようにも見える。
僕はそれを海沿いにある道路を車で走りながら窓から眺める。
家族で話している声がすぐそこから聞こえるのに、頭では処理できないから、まるで遠く離れたところから聞こえるみたいな錯覚を覚える。聞きたくない声から僕は背けて、みたいものだけを見る。たとえ邪魔をされようと。
*
「白鳥になってみる」
トンネルからくぐって出てきた車を見下ろしながら、僕はずっと同じところをぐるぐる回る。美しい羽をはばたかせ、空を誘惑する。
そんな行動に意味はない。というか、ひとつひとつの行動に対して考えてやっていない。本能が「こうしろ」と囁いてくるのだ。
*
僕は車にいる僕に戻る。そして白鳥に心のなかでこう叫ぶ。
「あなたは僕で僕はあなた。
だからあなたはきっと《あの家族を殺したい》と思ってるんでしょうね。」
テーマ-【舞うように】