夜郎

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7/20/2023, 5:15:26 PM

 一度、母に「どうして私の名前はこれなのか」と聞いたことがある。
5歳くらいの子供だった私に、母は由来を教えてくれた。
サバサバしていて格好よく、人目を惹く友人が昔いたのだそう。その人の名前の一部を取って、私に付けたと。
何よりも画数がよく収まったからさ、などと母は言った。

 しばらく年月が経ったあと、12かそこらの時に、私は母にその話を持ち出した。以前聞いたはずの自分の名の由来と、その由来が今どうしているのか。
そう、聞いたんだと思う。
だが、なんだか上手く聞けないまま、あるいは思い出せないくらい小さくしか話せないまま、その話は終わった。
はぐらかされたか、実は話していなかったか、思い出してみても判断がつかない。
そして、もう一度聞こうと言う気も湧いてこなかった。

7/19/2023, 1:35:30 PM


 適当な話の中でも、なんとなくわかるくらいに返事が鈍くなったので、振り返ると、目線はぬいぐるみに向いていた。
ふむ。店先のものならまだ良かったものを、熱い視線を受けるそいつはクレーンゲームの筐体の中、ころりんと転がっている。
やだなあ。でかいアームでぱくっとくわえて持ち上げるタイプ。あれ面白くないんだよなあ。
頭の中で、出てく2000円そこらの金と、あんまり面白くないゲーム性と、熱視線の主を天秤にかけてみる。
いや、分かりきってるんだけど。
「欲しいの?」
 え、と声を上げてゆっくり首を振っている。いいや、聞いては見たけど別にいいんだ。見たいのはそんな顔じゃないのだから、自分がやることはひとつ。
500円玉を景気よくぶち込んだ。わあ、と隣で声が上がる。ようし、なんとか3000円以内には収めるぞ。
呑気にころげるぬいぐるみをキッとにらみつけた。