夜郎

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 適当な話の中でも、なんとなくわかるくらいに返事が鈍くなったので、振り返ると、目線はぬいぐるみに向いていた。
ふむ。店先のものならまだ良かったものを、熱い視線を受けるそいつはクレーンゲームの筐体の中、ころりんと転がっている。
やだなあ。でかいアームでぱくっとくわえて持ち上げるタイプ。あれ面白くないんだよなあ。
頭の中で、出てく2000円そこらの金と、あんまり面白くないゲーム性と、熱視線の主を天秤にかけてみる。
いや、分かりきってるんだけど。
「欲しいの?」
 え、と声を上げてゆっくり首を振っている。いいや、聞いては見たけど別にいいんだ。見たいのはそんな顔じゃないのだから、自分がやることはひとつ。
500円玉を景気よくぶち込んだ。わあ、と隣で声が上がる。ようし、なんとか3000円以内には収めるぞ。
呑気にころげるぬいぐるみをキッとにらみつけた。

7/19/2023, 1:35:30 PM