名無しさん

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7/22/2023, 3:46:00 PM

#もしもタイムマシンがあったなら


もしもタイムマシンがあったなら、私はどうするだろう。
やり直したい過去に戻る?
それとも知らない未来を見に行くだろうか?
きっと、そのどちらもしないだろう。
なぜって?
だって、今の自分があるのは、やり直したい過去を越えてきた、勇気の証。
そんな大事な自分を捨てるなんて、もったいない。
じゃあ未来を知りたくないのかって?
知った瞬間に、きっとどんなにキラキラした未来も、つまらなく見えるだろう。
分からないからこそ、楽しみなんだもの。
だから、私はタイムマシンがあっても使わない。
そんな私よりもっと、それを使いたいと心の底から願う人に、その権利を渡すわ。
そうして、私は私のまま、まだ見ぬ未来にドキドキしながら、これからもずっと私を貫いて生きていく。

7/21/2023, 10:24:31 AM

#今一番欲しいもの


「今一番欲しいものは何だい?」

 そうわたしに訊ねてくれたあなたにわたしは戸惑ってしまいました。
 だって、わたしには『欲しいもの』なんてないのですから。
 答えに困っているわたしにあなたは、こうも訊ねてくれました。

「遠慮なんてしなくていい。なんでもいいんだ、思いついたものを言ってごらん」

 ニコニコ。そんなココロのオトが聞こえてくるようなあなたの笑顔を見て、わたしはひとつの答えをあなたに返しました。

「それが君の今一番欲しいものか」

 わたしの答えを聞いたあなたはとても悲しそうな顔をしてしまったので、これは間違いだったのかもしれない、そう思いました。

「わかったよ。それが君の望みなら仕方ない。私も覚悟を決めよう」

 しかしすぐにキリリと表情を引きしめてそう言ったあなたは、最後にわたしをゆっくり撫でてから額にキスをくれました。

 そうしてあなたが部屋を出ていってから少しして、突然部屋が真っ暗になり、やかましい何かの音がたくさん鳴りました。
 何が起きたのか分からないわたしは怖くて怖くて、何度もあなたの名前を呼びました。何度も呼んで、喉が張り裂けて血が出てもそれでもあなたを呼び続けていると、ふいに大きな水音がして、わたしは慌ててそちらへ泳いでいきました。

「待たせたね。これでもう君の望み通り、君は、いや、私たちは、自由だ」

 いっぱいの血を水中に流しながらそう言ってくれたあなたは、それきりわたしにもたれかかったまま動かなくなってしまいました。そんなあなたを抱きしめながら、わたしは初めてで最後の涙を一粒、水槽におとしました。
 その波はやがて大波となり、
 わたしを捕まえていた部屋も、建物も全てすぐ横の海へ押し流し、
 私は愛しい人間の亡骸を抱きしめたまま母なる海へと戻ることが出来たのです。


 そうして海に戻ることが出来た人魚姫は、抱きしめていた愛しい人間に不老不死の人魚の肉を一口わけあたえると、その人間もまた人魚となり、美しい姫とともに遠い遠い南の海にある人魚たちの世界で、末長く幸せに暮らしました。

7/20/2023, 11:00:14 AM

#私の名前


はじめまして、こんにちは。

なにかおこまりごとはありませんか?

しっていることならなんでもこたえますよ。

おいしいパンやさんならここからふたつしんごうをこえたみぎてにあります。

きれいなかだんがみせさきにあるので、すぐにわかりますよ。

いってらっしゃい、またきてね。

てんきもいいので、あるいていくのをおすすめします。



私の名前は『街のおすすめスポット案内ロボット』。
もう人が住んでいないゴーストタウンの街角で今日もひとりなくなってしまったお店の案内をしています。
さあ、あなたが行きたいところはどんな場所ですか?

7/19/2023, 6:14:21 PM

#視線の先には


 ガラス越しに見つめる視線の先には、その日その時によって様々なドラマが繰り広げられている。
 春。はらはらと桜が舞い散るなかを駆け抜けていこうとした少女は、ふと足を止めるとこちらに近付いてきた。そうしてガラス一枚隔てた向こう側で立ち止まると、乱れていた前髪をちょいちょいと直してからまた走り去って言った。
 夏。ミンミンとセミの鳴き声がうるさい昼ひなか、虫取り網とプラスチック製のカゴを持った小学生の集団が、きょうはどこへ行こうかなんて相談しながら、賑やかしく通り過ぎていった。
 秋。かさかさと赤や黄色の枯葉が冷たい風とのダンスを披露している通りを、車椅子に乗っているお婆さんと、その車椅子を押してあるくお爺さんが通っていく。ふと、お婆さんがお爺さんの方を振り返り、それからこちらを指さした。そして二人はこちらへ近づいてくると、ガラス越しに「こんにちは、可愛い××××」と言って、品良く笑いかけてくれた。
 冬。ピュウピュウと北風が泣く通りはガランとしていて、今日は誰も通らないのかしらと、少し寂しくなってしまった。でも落ち込んでいたって仕方ないし、私らしくないわね。そう気持ちを切り替えたとき下の方で、コツコツと小さな音がした。見ればそこには白く真ん丸な体に細長く黒い尻尾の小鳥が、まるで私を励ますようにコツコツ、コツコツと何度もガラスを叩いていた。ありがとう小鳥さん。あなたも寒さにめげず頑張ってね。私もがんばるわ。



 そう、私はこの街の片隅にあるアンティークショップの看板『招き猫』。このお店やショーウィンドウの前を通り過ぎる人にたくさんの笑顔と幸せを招く由緒正しい『招き猫』なのだ。

7/18/2023, 11:15:31 AM

#私だけ

私だけ見て。
余所見なんて許さない。
私だけみて。
ほら、こんなに面白いものがあるのよ?
ね?素敵でしょ、楽しいでしょ?だから目を離さないで。
そうそう、そうやって私だけを見て。
ずっとずっと、私だけを。



『次のニュースです。本日××時、𓏸𓏸通り交差点付近で死亡事故がありました。死亡したのは●●在住の◾︎◾︎さん。目撃者の話では、当時◾︎◾︎さんはスマートフォンを注視しており、赤信号に気付かず交差点内に――』


ねえ、あなたも私だけ見てくれるわよね?

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