『特別な夜』
毎日が特別
なんてことは思わないけど
大好きな本
大好きなワイン
大好きな君の声
笑い合えればそれで良かった
君のいなくなった日も
呑気にビール傾けてたな。
今も私は静かに
電気ブランを飲みながら
特別な夜を待っている。
水無月はじめ
『海の底』
そこは暗い?
陽も届かず
深く潜れば潜るほど
死の気配が濃くなっていく。
生の気配は薄まっていく。
そこは明るい?
色とりどりの珊瑚が
生きた証を残すために
遠浅の海で咲いている。
そこは温かい?
地下から湧く熱水の温かさ。
そのまわりに息づく生の鼓動
そこは冷たい?
氷に覆われ陽など届かず
ただひたすらに濃紺の世界。
稀に降りてくるはブライニクル
さて
君のいる海はどこにあるんだい?
『君に会いたくて』
「君に会いたい」などと
ある種の呪詛を思う。
会えなくなって10年だろうか?15年だろうか?
ひょっとしたらたかだか5年かもしれない。
だんだんと朧げになっていく記憶は
夢を思い出そうとすればするほど
彼方へ消えていくようなもので。
しかし夢になど出てくれるな。
起きて瞬間悪夢に変わる。
どうせならば忘れてしまえと
願ったこともある。
しかし人は
悲しいかな記憶する生き物で。
忘れようとすればするほど
むしろ鮮明に映ったりする。
どんな喧騒に身を置いても
それはカクテルパーティ効果の如く。
あぁ、いつになったら忘れるのか
さぁ、いつになったら思い出すのか。
今日も温い空気揺蕩うカフェで
私は記憶の海に潜るのだ。
『閉ざされた日記』
鍵のかけた日記ほど
再び開く勇気が出ない。
過去に何を思ってたのか
何を感じていたのか
どんな出来事があったのか。
鍵をかけたのをいいことに
無かったことにしてないか
時間が解決すれば
開く勇気が出るのだろうか。
鍵をかけたのをいいことに
忘れようとはしてないか。
過去を顧みる勇気はない。
過去を省みる勇気もない。
いつこの鍵を開くのか
それは誰にもわからない。
木枯らしが吹く。
昼間の春のような暖かさを切り刻むように。
ひゅうと吹く風に一瞬、息が止まる。
風が落ち着くと
私は、呼吸を思い出した。
水無月はじめ