さて、今度はどの時代へ行こうか。
先月行ったあの時代は凄かった。まさかあの歴史上の大事件の裏に、あんな真実があったなんて。
タイムトラベルをするようになって数ヶ月。これまで何度も過去を見てきた。帰ってくると当然、人に話したくなる。みんなと共有したい。
だがタイムトラベルには鉄の掟がある。
『一つ、歴史を決して変えるべからず
一つ、旅先で現地人との接触不可
一つ、見聞きしてきたものは他言無用』
これを破ったものに与えられるのは「永遠の追放」、つまり「死」だ。
でも話したくて話したくて仕方がない。
ここ数日、この欲求に必死に耐えている。あの真実はみんな知っておくべきだと思うのに。
そんなある日、肩を叩かれ振り返ると、そこには鏡…いや、もう一人の自分!
驚きのあまり口をパクパクさせていると、「いいか、耐えろ。決して口にするな。口にしたらお前の未来はない。現に私は…」話の途中でもう一人の自分は消えた。
悟った。未来の自分は、欲求に耐えられず人に話し、追われる身となったのだろう。そして、それを阻止すべく過去へ飛び、私へ忠告しに来たのだろう。
そうなれば、次の目的地はただ一つ。少し前の過去へ行き、自分に言い聞かせるのだ。決して口にするな、と。
意気揚々と旅立つ。
だが失念していたのだ、その行為が鉄の掟に触れるということを。そして何も解っていなかったのだ、未来の自分が消えた本当の理由を。
―――パラドックス
#19【もしもタイムマシンがあったなら】
サマージャンボ宝くじ
1等·前後賞の当たりくじ!
アラヤダ、本音が出ちゃった♡
#18【今一番欲しいもの】
"私の名前は○○" と歌ったお針子の彼女は、病で亡くなった
"私の名は✖✖✖"と言った複製人間は、太陽に焼かれ消滅した
"名前は◇◇◇◇" と言った淡灰色の斑入の猫は、酔って水甕に落ちて死んだ
"おれの名を■■■■■"とほざいた男は、秘孔を突かれて爆死した
"私の名は△△△△・△△・△△・△△△△"と言った分家の男は、瓦礫と共に海の藻屑となった
#17【私の名前】
ママが みているのは ボクの おでこ
のびた まえがみを きるために
しんけんな かお
ママが みているのは ボクの おべんとうばこ
きょうも ぜんぶ たべたよ!
うれしそうな かお
ママが みているのは ボクの りきさく
みどりの クレヨンで かいた おおきな きょうりゅう
こまった かお
ママが みているのは ボクの ねがお
やさしく あたまを なででくれる
きっと やさしい かお
―――ママのめ ママのかお
#16【視線の先には】
とうとう私だけになってしまった。
連れ合いに先立たれ、とうとうこの途方もなく広い海に私だけとなってしまった。
思えば、随分長い年月を生きてきた。温かい日も冷たい日も、穏やかな日も荒れた日も。
昔はたくさんの仲間がいた。私はまだ若く、世界は輝きを放ち、未来は明るかった。
それがいつからだろう。環境破壊が進み、暮らしにくさを皆がボヤき、つまらない諍いが増えた。仲間は少しずつ減って行き、最後に残ったのが私と連れ合いだった。
連れ合いと旅に出た。どこかにまだ仲間がいないか、どこかに少しでも暮らしやすい所はないか、探して回る旅に出た。しかし結局どちらも見つけることは叶わなかった。
長い長い旅路の果てに、私たちはかつて仲間と暮らしたこの海へ帰ってきた。ここで共に静かに余生を過ごすことに決めたのだ。
そう決めたのに、幾許もしない内に連れ合いは先立ってしまった。
連れ合いを失ってしまったことへの悲しみ、約束を違えられたことへの怒り、自分だけになってしまったことへの絶望。目まぐるしく襲いかかってくる感情についに耐えきれなくなった私は、全ての感情に蓋をし、そしていつか連れ合いと一緒に見た海淵へ沈むことに決めた。光が全く届かない場所で、静かに全てを終わらせるために。
もう私だけになってしまったのだから。
―――最後の最期
#15【私だけ】