傾月

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とうとう私だけになってしまった。
連れ合いに先立たれ、とうとうこの途方もなく広い海に私だけとなってしまった。
思えば、随分長い年月を生きてきた。温かい日も冷たい日も、穏やかな日も荒れた日も。
昔はたくさんの仲間がいた。私はまだ若く、世界は輝きを放ち、未来は明るかった。
それがいつからだろう。環境破壊が進み、暮らしにくさを皆がボヤき、つまらない諍いが増えた。仲間は少しずつ減って行き、最後に残ったのが私と連れ合いだった。
連れ合いと旅に出た。どこかにまだ仲間がいないか、どこかに少しでも暮らしやすい所はないか、探して回る旅に出た。しかし結局どちらも見つけることは叶わなかった。
長い長い旅路の果てに、私たちはかつて仲間と暮らしたこの海へ帰ってきた。ここで共に静かに余生を過ごすことに決めたのだ。
そう決めたのに、幾許もしない内に連れ合いは先立ってしまった。
連れ合いを失ってしまったことへの悲しみ、約束を違えられたことへの怒り、自分だけになってしまったことへの絶望。目まぐるしく襲いかかってくる感情についに耐えきれなくなった私は、全ての感情に蓋をし、そしていつか連れ合いと一緒に見た海淵へ沈むことに決めた。光が全く届かない場所で、静かに全てを終わらせるために。
もう私だけになってしまったのだから。


―――最後の最期


                    #15【私だけ】

7/19/2023, 2:54:29 AM