あの日が、まだ昨日のことのように脳に刻み込まれている。細胞レベルで記憶している景色が忘れさせてくれない。
あなたのまつ毛の長さを知った時、嬉しすぎて浮かれすぎて眠れなかった夜を君は知らないだろうね。
あの日の景色を、君の体温を、柔らかさを、僕は忘れることが出来ないでいる。
/あの日の景色
あの日から七夕は嫌いだ。
「楽しく過ごせますように、ずっと一緒にいられますように」
そう、短冊にはこの手で書いたのに。僕はあっという間に一人になった。あっという間に、母も父も妹も失って、親戚の家を転々として結果施設に入るなんてお願い事をした時の自分は到底信じられないだろう。
買い物に行くと誘われたけれど、断ってしまったから。僕があの日ゲームをしていたから。宿題が終わっていなかったから。もし、着いて行ったら僕だって三人の元へ行けたのに。
僕は七夕が嫌いだ。神様も嫌いだ。願い事も嫌いだ。ぜんぶ、僕を一人にするから。
/願い事
破片が当たって痛くて、でも全てバチだと思った。バチが当たったんだ。
輝いていたから調子に乗って掴んで自分のものにして、割れたら逃げるような僕だった。
相手を傷つけるような言葉をあえて選んだ。最低だなと思いながら話し続けた。自業自得なのだ。
綺麗なクリスタルをただただ綺麗だと思えなくなったのはいつからだろう。割れたら刃物になる、そう思うようになったのはいつからだろう。
僕をひと突き刺した破片を見る。鋭利で綺麗な二等辺三角形だった。悪者は僕だけだった。
/クリスタル
ほら、またカーテンを撫でたでしょう。君は都合が悪くなるといつもカーテンを優しく触る。
いつも私の範疇の外にいるのに毎日ココに帰ってくるのが虚しくて切なくて、けれど、私はあなたが大好きだからあなたがカーテンを触るたび嬉しくて堪らなくなってしまうよ。
/カーテン
目が見えない自分には、全てが関係ないことだった。空の青さも、夕方のオレンジも、朝方の紫も。
「青色が何かは分からないかも知れないけど、青さの形容はきっとあなたにも分かるよ。」
「関係ないよ。僕は何も分からないんだから」
「私はあなたのこころが青く深くいる事は分かる」
僕は青さを知らない。深さを知らない。けれど、彼女の懐のデカさも優しさも愛も僕は容易に理解ができた。
「それを青さというのなら、僕も分かるかもしれない」
「でしょ?」
「君の青さと深さなら、理解できるよ」
ハッとした音が鳴って、彼女は何も言わなくなった。次に聞こえた音は鼻を啜った音だった。
思わず僕は手を伸ばす。彼女の頬を優しく捕まえた。
彼女の涙は温かかった。
/青く深く