児童期。夜は、わたしを匿ってくれた。
連れられた飲み屋街で朝まで父親の用の終わるのを、同じように待っているがき共と追いかけっこをして遊んでいた。
入れ墨に食われた兄(あん)ちゃんが、やるよとわなげチョコを握らせてくれたのを、垢だらけの頰で、鼻を垂らして微笑んだのだ。染みに縒れた服の皺すらも、口角のように婉曲だった。
寒くない孤独はないが、寒い充足はあるのだと、言葉におこそうと考えない程、体の深部で知っていた。
わたしの味方。わたしの家。
だから、わたしは夜中の飲み屋街が好きだったんだが…。
若年になってから――女と他人に裁決される歳になってから、どうもぶが悪い。
どうやら搾取の対象になってしまうようで、このボディタイプでは夜と相性が悪くなってしまった。
あぁ、そんな。そんな爪弾き、そんな裏切り、あの頃が嘘のように。
また捨てられてしまった、母なるものに!
言語化は共感であり、ときに人間を救う
目蓋の裏が見えそうな程吊り上がった瞳が見えた。黄ばんだそれとのコントラストがグロテスクなくらい、おまえの顔は赤く茹だっていた。
よく、憶えている。
剛直な骨を隠している毛に覆われた太い脚も、膨れた脹ら脛も、大樹を斬り倒したそれに酷使した太い首も、およそちゃちではない指も、汚れた眼鏡も、わたしより太く中身の詰まったその腕も、無精髭も、厚い胴も、猛々しい猶予も与えない思考の奪う大きな声も、血管の浮いた額も、わたしよりある上背も、ぬるりと伸びたわたしを覆う大きな影も、機嫌の悪い首の角度も足音も呼吸音も顔色も声音も顔つきも話し方も、ドアの開け方呼び掛け方わたしを見る目、その目、目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目👁️目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目。
何やら唾を飛ばしておまえは詰った。
何やら握った拳をおまえは振った。
たぶん、きょうで終わるのだとわたしは竦んだ。
俯いていた。目だけ馬鹿みたいにかっぴらいていた。耳の後ろが寒かった。集中させるかさせまいか、決め倦ねた神経が困惑していたから。聞きたくないけど聞かなければ命取りだった。頭には何も残ってなかった。ただ肉として"そこに有った"。首の骨の軋む音が秒針の如くキリキリと響いて、それが意識を邪魔する限りわたしは時間を忘れることができずにいた。限りなく現実に繋ぎ止められていた。絶えず丸ごとの心臓を嚥下し続けているような動悸で、前髪が揺れていた。息がまるで浅かった。吐き気のような不安が油のように渦巻いていた。いっそ、生きていてもしようがないくらい。
怖くて、怖くて、
悪寒がするほどの殺意を覚えた。
震えていた足にも苛立って、いつ様変わりしたのかもわからないほど、自然に、もはや最初からそうだったのではないかと、思わされるほど。
曰く、生存本能だとか言う。
曰く、命の危険を感じただとか言う。
曰く、普遍的な家庭で育てば知らぬままでも死ねると言う。
曰く、敵に抱くものだと言う。
体は生きたいと思っている、敵だと思っている、親を、肉親を。
………ほんとうに、これは、わたしのなみだなのか。(むごい!!!!!)
劣等の劣等は優等じゃないんだよ
肉のついていない女が男では無いように
取り越し苦労だよ。これに怯えるのは建設的じゃない。