前回投稿分の、その後のおはなし。
「ここ」ではないどこか、別の世界の公的機関、世界線管理局は今日も平和。
法務部所属のビジネスネーム・ツバメはこのほど、長年連れ添ったバイクを新車に乗り換えまして、
納車からの安全祈願早々、稲荷子狐や化け子猫、子猫又や子カマイタチに
ガリガリガリ、ばりばりばり。
爪研ぎ等々されてしまいました。
子供といえど、稲荷の御狐様が為したことなので、
安全祈願、ご利益満載、悪縁退散万福招来、
小ちゃいバフが無料で盛られておるのですが、
いかんせんシートもボディーも傷だらけでして。
「はぁー。こりゃまた随分と」
ツバメが頼りにしておるところの経理部エンジニア、スフィンクスにバイクを見せに行きますと、
スフィンクスもスフィンクスで、爪研ぎの跡をペンペン叩いて、呆れたようなため息を吐きました。
「こりゃ傷を直すより、全体的に塗装し直して、シート張り替えた方が早いし安いぜぇ」
ポンポンポン、ぽんぽんぽん、
24個と1個のミカン型自律自動機械が、ツバメのバイクをそれぞれ3Dスキャンして、
ジジジ、じーじーじ、診断結果を出力します。
なにか神秘的なエネルギーが少量検出されたようですが、スフィンクスはひとまず、放っときます。
「で?どうすんの?」
「費用と期間は惜しみません」
「じゃ、いつも通り?」
「はい。長く乗れるように。私の例の口座から」
「まいど」
「よろしく、どうぞよろしく、お願いします」
ひとまず、こちら前金として。
制服の内ポケットから茶封筒を、ツバメが取り出しましてコソコソ、スフィンクスに渡します。
そしてここからがお題回収。
茶封筒を受け取ったスフィンクスが、ニヤリ、ツバメに深く頷きますと、
ツバメはパッと、太陽のような明るい表情になって、そして、スフィンクスに頷き返しました。
「ところでツバメ。
まぁ、俺様としては、アンタは支払いが良いから別に構わねぇんだけどさ。なんで俺様なの」
「あなたに依頼すれば、入庫から作業、出庫まで、全部管理局内で完結するでしょう」
「バイクの趣味なるべく隠してぇってこと?」
「口止め料の請求ですか?」
「ちげぇわ」
「では材料費高騰で値上げの交渉を?」
「いらねぇわ」
「必要な費用は遠慮なく引いてほしいといつも」
「いいからカードしまえ」
はいはい、はいはい。それじゃ後日な。
経理部エンジニアのスフィンクスは、ツバメからバイクを受け取りますと、
24と1個のミカンたちに音声指示して、大事に作業場まで、持ってゆかせます。
「では。スフィンクス査問官。
よろしくお願いします。連絡、待っています」
お題どおりの太陽のような表情で、ツバメはスフィンクスに、礼をしました。
スフィンクスはといえば、はいはい了解の様子。
片手をヒラヒラして、ばいばい。そっぽを向いて自分の休憩時間に戻っていきましたとさ。
前々回から続いたおはなしも、今回と次回投稿分とで、ようやくひと区切り。
最近最近の都内某所、某良質な杉林の奥の奥にポッカリ登場する秘境キャンプ場に、
人間の男性と本物の稲荷子狐と、化け子狸と化け子猫と、それから子猫又と子カマイタチが、
ワイワイ、わいわい、やってきておりました。
子狐たち子供ーズの手はそれぞれ1台ずつ、小ちゃいポータブルかまどを与えられており、
それぞれがそれぞれ、自分のかまどの火の面倒を、一生懸命、見ておりました。
「あ、やだ、やだ、消えちゃう、火が消えちゃう」
子猫又は自分のかまどの火を大きくしようと、急いで大きい薪を詰めますが、
逆に段々、少しずつ、火が小さくなってゆきます。
「どうして、ああ、やだ、どうしよ、どうしよう」
子猫又を含めて子供ーズの、かまどの火は子供ーズ自身が、それぞれ自分たちのチカラで、
もちろん、最初に人間から方法は教えてもらいましたし、注意もちゃんと聞きましたが、
まさしくお題のとおり、「0からの」自力・自作でもって、着火されたのでした。
特に、かまどの火の一番最初、焚き火の起点にした枯葉キャンドルは、
子供ーズが自分たちで枯葉を詰めて、ぎゅーぎゅー押して、ロウソクのロウを流して固めた作品。
子供ーズは0からの自作品、枯葉キャンドルに、
自分たちのチカラで火をつけて、火を育てて、
それでもって、それぞれ好きな料理をつくる予定であったのでした。
引率の人間は、危険が無いかだけに注視して、
なるべく、極力、手を出しません。
すると、子猫又のピンチを助けようとして、
子狐も子化け猫も、皆みんな、集まってきました。
「もっかい、火をつけよう」
「ちがうよ、入れた枝が、おっきすぎるんだよ」
「僕の火、分けてあげる、まってて」
わちゃわちゃ、わちゃわちゃ。
皆で子猫又のトラブルに向き合っておると、
あらあら、まぁまぁ。
子狐が自分のかまどを見てない間に、
子狐のかまどの火が大きくなり過ぎて、鍋底が下からごうごう燃やされています。
これは子供たちには、対処が難しい事態です。
「子狐」
ここで人間が、声をかけました。
「おいで。一緒に火を小さくしよう」
良いかい。落ち着いて。
私がどうやって対処するか、よく見ておくんだ。
パニックでギャンギャン泣きじゃくる子狐を、人間は優しく抱き上げます。
そして、人間はすごく手慣れた風に、小ちゃなポータブルかまどへの空気の出入りを狭くしたり、焚き火台の方に火付きの薪を移したりして、
たちまち、大火災な子狐のかまどの勢いを、丁度良い大きさまで鎮めてしまったのでした。
「すごい。すごい」
「もう大丈夫だ。あとで一緒に、何が起きたか、次はどうすれば良いか、考えよう」
「かんがえる!」
さあ、みんなで美味しい料理を作りましょう。
みんなでかまどの火を見ましょう。
子供ーズは自分たちで話し合って、答えを考えて、
時々、人間にお願いして手伝ってもらって、
数十分後には、焼かれたバター餅にチーズカレー、お汁粉にブロックステーキ、
そして、かまどの外で燃やしていた焚き火の予熱であぶられた、マシュマロなんかが完成しました。
「キツネたち、0からぜんぶ、作った!」
「私、はじめて焚き火でお料理した」
「お汁粉のあんこ残ってるから、そっちのバターもちに、分けてあげる」
わいわい、わいわい!
最初はハプニングもありましたが、子供ーズは皆で協力して、美味しいものを作り上げました。
0からの火起こし、0からの料理を、焚き火を囲んで食べた数時間は、
子供ーズの素晴らしい思い出として、ずっとずっと、残り続けましたとさ。
前回投稿分に続くおはなし。
最近最近の都内某所、某本物の稲荷狐の家族が住まう稲荷神社の宿坊に、
ひとりのニンゲンの男性が、ピッカピカの新しいバイクを押して、やってきました。
「おはようございます。よろしくお願いします」
約7万キロ連れ添った愛車を諸事情で、去年の夏、看取ったニンゲンです。
しゃーないのです。高いところからバイクで跳んで、緩衝材も無い地面にドン!着地したのです。
詳細は過去作8月7日頃投稿分参照ですが、
スワイプが面倒なので、気にしてはなりません。
「はい。愛車安全祈願で予約の、ツバメさん。
祈祷料は既に納めて頂いていますね」
コンコン。さあ、どうぞこちらへ。
美しい黒髪の巫女さんが、ツバメと呼ばれたニンゲン男性を案内します。
道の先ではご年配のおじいちゃん神主さんが、
穏やかな笑顔でお祓い棒、大幣を持って、ツバメのことを待っておりました。
神主さんの近くでは、稲荷子狐がキャッキャ、きゃっきゃ。子狸や子猫たちと遊んでいます。
掃除で積まれた枯葉が楽しいのです。
「お義父さん。よろしくお願いします」
「うむ。では、始めるぞい」
しゃーんしゃーん、しゃーんしゃーん。
神主さんは慣れた所作で、大幣を左右に振ります。
しゃーんしゃーん、しゃーんしゃーん。
大幣の白いピロピロが、それに合わせて動きます。
子狐と子猫はピロピロに興味津々!
ところでツバメが持ってきたバイクは、座るところが非常に温かそうです。
なにより揉み心地が良さそうですし、爪研ぎにもピッタリに見えます……
「こりゃあ!イタズラしてはイカン!」
バリバリバリ、ばりばりばり!
子狐と2匹の子猫と、それから子イタチが、
せっかくの新車バイクに爪をたて、引っ掻き、さあタイヘン!もう傷だらけです!
祈祷をお願いしていたツバメは、
ここで丁度良くお題回収、
「同情」待ったナシの卒倒的ショックの表情。
そりゃそうです。せっかくの、新車なのです。
ツバメの同情さそう絶望をよそに、
稲荷子狐はバイクに爪をたてて登頂を目指し、
化け子猫と子猫又は座面で爪研ぎ。
子カマイタチがそれらに混ざろうとしてるのを、
化け子狸が必死になって、尻尾掴んで制します。
なんということだ。なんということでしょう。
この理不尽に、ツバメは耐えねばなりません!
なんと悲劇的なことでしょう(しゃーない)
ただ数少ない救いは、
子狐に子猫たち、この子供ーズが人外といえど、人語の分かる子供ーズであったことと、
ツバメにはとてもとてもウデの良い、あらゆる傷を修復できる、整備士のアテが在ったことです。
ということでまず、バイクを傷つける子供ーズを、バイクから剥がしましょう。
丁度良いことに、その日は3連休の前日。
ツバメも仕事の休みをとっておりました。
「枯葉で一緒に、キャンドルを作らないか」
ツバメが子狐たちに言いました。
「そこの枯葉をたくさん詰めて、ロウソクを溶かして流し込むんだ。
完成したらそれを使って、焚き火をしよう。自作の着火剤で、料理を作るんだ」
ほら。これを自分で作れるんだよ。
ポケットからツバメが美しい青色グラデのキラキラキャンドルを取り出して見せますと、
キャンドルの美しさと珍しさに、子狐たちは目が釘付け!たちどころにイタズラをやめました。
「さあ。枯葉を集めるのを、手伝ってくれ」
そこから先は、昨日投稿分のおはなしです。
ツバメは子狐たちと一緒に、先日から利用しておったところの宿坊でキャンドル教室を開講して、
その間に、神主さんが丁寧に丁寧に、本物稲荷狐の不思議なチカラをマシマシにして、
しゃん、しゃん。ご祈祷を続けます。
神主さんからツバメへの同情があったのか、
最初に納めておった祈祷料の半額が、後ほど、ツバメに返却されました。
枯葉のキャンドルが完成したら、あとはキャンプ場で調理遠足。
自分たちでゼロから作ったキャンドルは、はてさて、ちゃんと機能するのでしょうか……?
予報によれば、来週の頭に最高気温20℃を超える予想となっている、最近最近の都内某所です。
某本物の稲荷狐が住まう、某不思議な不思議な稲荷神社は、昨今の乾燥する空気で枯葉がいっぱい。
カサカサ鳴っては風に飛んで、敷地内のあっちこっちを旅しています。
神社に住まう稲荷狐の家族の末っ子は、吹っ飛ぶ枯葉も積もる枯葉も大好き!
どちらも子狐にとって、良い遊び道具です。
ジャンプして飛び込めば風圧で舞い、
追いかければそれぞれがランダムに逃げます。
昔は勝手に火をつけて、焼き芋なんてしてたのよ、
とは、●●●●年を生きるおばあちゃん狐の昔話。
消防法が少し難しくなった現在は、近隣に迷惑がかからないように、
なにより周囲を不安にさせないように、
コンコン子狐が生まれる少し前から、枯葉での焼き芋は、とっても珍しくなりました。
ところで世の中には
この枯葉を使って自作可能な
キャンプに最適、着火剤が存在するそうで。
「そうだ。 そう。しっかり押して詰めて」
「つめる!いっぱい、つめる!」
その日の稲荷神社では、宿坊を利用しているニンゲンの男性に主催してもらって、
枯葉でキャンドルモドキの工作教室が開講中。
稲荷子狐とその友達の、化け子狸と化け子猫と、子猫又と子カマイタチが、
せっせこせっせこ、小ちゃい小ちゃい試飲用紙コップに、枯葉をポンポン押し込んでいます。
「うう、うぅぅ、 こぼれちゃった」
「また詰め直せば良い。大丈夫。気にしないで」
「うん」
「いろどりが無いわ。ピンクとか、黄色とか」
「流し込むロウソクのロウに、色を付ければ良い。
あとで手伝ってくれるかな?」
「てつだう!」
ポンポン、ぽんぽん。
自分だけのカッコイイ、あるいはかわいい着火剤モドキを作りたくて、子供の人外ズは一生懸命。
うまくできたら、自作着火剤をキャンプ場に持っていって、
火起こしからの調理からの実食、キャンプ遠足をする約束なのです。
「なにつくろう、ねぇ、何つくる」
「私、普通に焚き火して、マシュマロ焼きたいわ」
「じゃあ私、焼いたマシュマロに付けるための、チョコをとかす。チーズも良い!」
「キツネおもち焼く!おあげさんも焼く!」
「ぼ、僕、それじゃあ、お茶いれる……」
きゃっきゃ、きゃっきゃ。
皆みんな、枯葉を紙コップに押し込んで押し込んで、それを使って何を焼くかで大盛り上がり。
よしよし。良いことだ。
工作教室を開講したニンゲンの男性は思いました。
子供たちが着火剤づくりに夢中になれば、すなわち子供たちはその間、外に出てゆきません。
子供たちが外に出なければ、このニンゲンのバイクはひとまず安全なのです。
というのも数時間前
子狐たちは神社の外で元気に遊んで
結果としてニンゲンが持ち込んでおったバイクにアレコレこんこんニャンニャン
イタズラし放題であったのです。
「完成したかな?」
男性は子供たちを見回して、言いました。
「それじゃあ、この紙コップに流し込むための、ロウを溶かそう。手伝ってくれるかな?」
はーい!はーい!
カラカラいろんな色の小ちゃいロウソクが出てきて、人外子供たちの目はキラキラ!
「好きな色を3本選んで。それを砕くんだ」
「わかった!」
「ピンク!私、ピンクがいい」
さっきまで夢中だった枯葉の次は、ロウソクです。
子狐たちは、これにも一生懸命。
やがてロウソクは溶かされて、紙コップに注がれて、冷えて固まるまでの間、明るい空の下に全部仲良く、並べられたとさ。
前回投稿分から続くおはなし。
今日も平和な「ここ」ではないどこか、別の世界の職場。世界線管理局です。
前回投稿分の妙ちくりんな金銀ワサビ女性によって、虚ろ目だかぐるぐる目だかにノビてしまった図書館職員・藤森が、
ガラガラガラ、がーがーがー。
ストレッチャーにのせられて、ゆっくり、移動しておりました。
「はーい、患者さん通りまーす」
「かんじゃさん!かんじゃさん!」
ストレッチャーを押しておるのは、被害に遭った職員の友人で、管理局の法務部職員。
ビジネスネームをカラス、または付烏月(つうき)といいました。
なおノビてる藤森の胸の上で、ファシファシ、しゅひしゅひ、シーツなどに穴掘りしておる子狐は、
ただの稲荷子狐でして、特に意味はありません。
単純に藤森のバタンキュにノビてるのを、面白がっておるだけなのです。
特にストレッチャーなる乗り物が楽しい様子で。
「患者さん通りまーす。道あけてくださーい」
「くださーい!」
さて。
前回投稿分の妙ちくりんワサビにやられた藤森、
その妙ちくりんが藤森の体にも、魂にも、悪い影響を与えていないか、調べる必要がありますので、
非科学的、神秘的、魔法じみた体調不良にも対応できる世界線管理局の医療施設へ、
すなわち通称「医療棟」へ搬送されます。
「なに。世界線管理局法務部のシジュウカラが、
東京の図書館で妙ちくりんなワサビを使って、その結果としてこの患者が気絶した?」
はぁ、なるほど?
ストレッチャーが診察室のひとつに到着しますと、
医療棟に勤務する医務官、ヤマカガシが待っておりまして、藤森の目を観察します。
「で、その『妙ちくりんなワサビ』というのは?」
「なんか、『お気に入りの金剛ワサビと銀剛ワサビ』とかいうヤツらしくて。
問い詰めたら色々と情報出してくれたけど」
ほら。コレ。 ふむ。どれどれ。
カラスが渡した情報の束の、1枚目と2枚目に目を通したヤマカガシは、
少し考え事をして、助手さんにそれぞれ指示を出して、うん、と小さく頷きました。
「例のフローリングの12時間暴露を処方する」
ヤマカガシは言いました。
「レプリカほどの強度は不要だ。ひとつ下のレベルの、イミテーションで十分だろう。
要するに、寝れば勝手に治るハナシだ」
フローリングって、何でしょう?
子狐はヤマカガシの言っていることの、意味がちっとも分かりませんでしたが、
カラスは全部心得たようで、助手さんの誘導に従って、ストレッチャーをガラガラガラ。
子狐と一緒に、ゆっくり押してゆきます。
「ふろーりんぐ」
「そうだよん。フローリング。
数少ない、オリジナルが管理局に収蔵されてないチートアイテムのうちの1個だ」
「フローリング?」
「誰でもたちまち寝かしつけてしまうから、
不眠症とか、睡眠不足とか、そういうのにだいたい処方されるよん」
なんだそれ、なんだそれ?
頭にハテナマークを浮かべる子狐と、完全にノビて何も言わない藤森をのせて、
ガラガラガラ、がーがーがー。ストレッチャーは移動してゆきます。
「12時間お昼寝、いってらっしゃーい」
途中で待っている助手さんにストレッチャーを任せて、カラスは帰ります。
「半日ネンネだから、
今日にさよなら、しておいでー」
なんだそれ、なんだそれ?
今日にさよならって、なんだそれ?
子狐はやっぱり、ちんぷんかんぷん。
気がつけば眠気が降りてきて、気がつけば気持ちよく昼寝をしておって、
最終的に、心も体も魂もスッキリ。
藤森は藤森で、1日分の記憶がスッポリ抜け落ちておったとさ。