「仕事納めの後、年末年始がいわゆる、社会人の冬休みみたいな部分はあるのかな」
まぁ、ぶっちゃけその「冬休み」も、取れる職業と取れない職業があるし、俺のことも「みなまで言うな」だけどさ。
某所在住物書きはポテチをパリパリ噛みながら、遠い遠い昔に過ぎた数週間、あるいは1ヶ月程度かもしれない期間を思い返す。
ぶっちゃけ、これといった思い出は無い。その冬休みをどう物語にせよというのか。
「……正月太りは冬休みの季語?」
ぷにぷに。ネタに事欠き、物書きは己の腹を押す。
――――――
仕事が納まった。
例のアメちゃんサイドな商店街は、買い物客でごった返してて、数年前の東京がようやく戻ってきた、って印象だった。
3年前だか4年前だか、もう記憶が曖昧になっちゃったけど、ともかくガラッガラの、「ちゃんと道の先が見えてる商店街」がただ衝撃で、激レア過ぎて、
スマホでいっぱい、呆然と撮ってたのは覚えてる。
今日は仕事納め。
明日から、数日だけの、社会人の冬休みが始まる。
なお別に予定は無い。お金はいつもキッツキツだし、なるべく貯蓄したいから、海外とか地方とかへ旅行に行くワケでもない。
「里帰り」?東京がお里です(既に帰郷済み)
ちなみに雪国出身の先輩は、「つまり、単独逆参勤交代の旅費が不要ということだ」って言ってた。
今年は3〜4年ぶりに、時期をズラして、3月最初頃に帰省する予定らしい。
で、その雪国出身の先輩、自宅のアパートで今一体何やってるかと言いますと。
ご近所の稲荷神社の多分ペット、ちょこちょこ先輩の部屋に出没する子狐に、何故かウールの毛糸と防水生地で、小さい手ぶくろと足ぶくろ作ってます。
「ナンデ?」
「私が聞きたい」
先日捻挫して、治って、仕事納めもリモートワークだった先輩の部屋を訪ねたら、ぎこちない手でせっせとかぎ針してた先輩。
「湯ならポットに沸かしてある。適当に茶でもコーヒーでも、好きなやつを淹れてくれ」
そのかぎ針から伸びた毛糸の先の、比較的大きめなウール毛玉に、「エキノコックス・狂犬病対策済」って木札を下げた子狐が、乗っかってゴロンチョ転がって、たまにあむあむ、糸だの玉だのを噛んでる。
くっくぅくぅ、くっくぅくぅ。
ご機嫌らしく、鼻歌まで歌ってた。
「先輩、手芸スキル持ってたっけ」
「無い」
「バチクソに初期初期の初期ってか、1個目編み始めたばっかりに見えるけど、何分前から編んでる?」
「1時間前から」
「完成予定は?」
「未定だな」
このままじゃ、先輩の冬休み、編み物で終わるな。
と、思う程度の進捗状況な編み作業。
それでも、一生懸命なこと「だけ」は伝わってくる。
「先輩?」
子狐ちゃんを毛玉から引っ剥がして、おなかをワチャワチャ撫でながら、私は提案した。
「多分ペットショップの子犬用手袋の既製品買ったほうが、何百倍も早いし確実だと思うよ」
先輩は「それができれば苦労しない」って顔で、でもすごく、同意して頷いてた。
「某値段以上だか異常だかの家具屋と……今は某無印なブランドにも、どこでも結構『着る毛布』って普及してきたじゃん」
手ぶくろ。手袋か。某所在住物書きは一度、ため息を小さく吐いてスマホの通知文を見た。
「その生地で、『着る毛布』の手ぶくろ版とかインナーコート版とか、あったら需要あると思うんだ」
今年は暖冬とのことだが、それでも何でも、冬の手足は冷えやすい。
某〼ウォーム級の保温性を持つ手ぶくろは、どこかに需要があるのでは。それが物書きの持論であった。
「理由?」
ぽつり。物書きがひざ掛けのズレを直しながら言う。
「だって寒いもん」
――――――
例年より、比較的、ある程度、そこそこ微妙に暖かいらしい年末の昨今、いかがお過ごしでしょうか。
「手ぶくろ」がお題ということで、都内の稲荷神社に住む子狐と、手ぶくろの童話にまつわるこんなおはなしを、ご用意しました。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、そのうち末っ子の子狐は、まだまだホントの、ガキんちょ子狐。
いっちょまえの化け狐、善良な御狐となるべく、不思議なお餅を作って売って、人間の世を学んでいる真っ最中です。
そんなコンコン子狐は、お花や、お星さま、キラキラしたものにフワフワあったかいものが大好き。
人間の世界でそういうキラキラフワフワしたものを見つけては、しっかりお耳と尻尾を隠して、ばっちり人間の姿に化けて、餅売りで貯めたお駄賃握りしめ、これください、と集めておったのでした。
あるいはマナー悪い人間が神社に捨てていくのを、ちょいと失敬しておったのでした。
そんなガキんちょなコンコン子狐、お家の本棚の蔵書で、気になっている絵本がありました。
狐童話の傑作のひとつ、『手袋を買いに』です。
雪積もった森に住む子狐が、夜の町にやってきて、人間からあったかい手袋を買うおはなしです。
「手袋、手ぶくろ、ほしいなぁ」
子狐コンコン、自分の小ちゃい小ちゃい前足をまじまじ見つめて、ポツリ言いました。
子狐は都内から出たことが一度もありません。
深い深い積雪も、しもやけの冷たさや痛さも、あんまりよく知らないのです。
「きっと、フワフワで、あったかいんだろうな」
でも子狐、絵本の中の子狐の、町で買い求めた温かい手ぶくろが、羨ましくて羨ましくてたまりません。
「まねっこしたら、売ってくれるかな」
幸福な嫉妬、善良な羨望が積もりに積もって、とうとう我慢が限界突破の完凸な子狐。
いつもお餅を買ってくれるお得意様な人間に、「『手袋を買いに』ごっこ」を敢行しようと、
トテトテ、ちてちて。移動を開始しました。
小ちゃい子供って、「自分は◯◯だ!」と思ってごっこ遊びの世界に入り込むこと、ありますよね。
この子狐も結局はガキんちょ。いっちょまえの子供だったのです。
――で、困ったのがこのコンコン子狐に、「手袋を売ってくれる人間」の役を勝手に割り振られてしまった人間です。
「……こぎつね?」
ピンポンピンポン。
コンコン子狐の稲荷神社の近く、某アパートの一室の、インターホンが鳴りました。
「何がしたい?何を私に期待している?」
モニターを見ると、いつもの、例の不思議な餅売り子狐が、ちょこん、カメラの前におりましたので、
ドアを開けてやりますと、
何故かそのドアの後ろに、ピョイッ!すっかり隠れてしまって、
小ちゃな小ちゃな右手だけ、すなわち子狐の肉球かわいらしい右前足だけ、部屋の主に見せるのです。
「このお手々に、」
コンコン子狐、絵本で覚えたセリフを言います。
「ちょうどいい手袋ください!」
部屋の主、ここでやっと、ピンときました。
アレだ。自分が小学生の頃、たしか国語の教科書に掲載されていた。『手ぶくろを買いに』だ。
何故手袋を売る帽子屋役をやらされているのだろう。
チラリ。ドアの向こうの、隠れているつもりな子狐を、部屋の主が確認します。
いつも不思議なお餅を売りにくる不思議な子狐は、それはそれは幸せにお耳をペッタンして、尻尾をブンブン振り回しておるのでした――
「子狐。非常に申し訳ないが私に手芸スキルは無い」
「おかね、有ります」
「……ペットショップの子犬用既製品は許容範囲か」
「やだ」
「まぁ、まぁ。ベタなハナシよな。『不変は無い』」
伝統工芸とか郷土料理とか、「変わらないように」を目標にしてそうな分野の方々のことは、どうなるんだろう。某所在住物書きは配信の通知文に8割9割賛同しつつ、残る1割2割の「変わらないものはない『わけではない』」を探してネットをさまよっている。
ことに、菓子や料理の世界では、「味変わったね」より、「いつもと同じ美味しさだね」を尊ぶ界隈も、ありそうで、そうでもなさそうで。
「……無いと断言されると反例探したくなるやつ」
何か無いかな。物書きは諦め悪く、ネットの中を探し続ける。
――――――
職場の先輩が、なんでも年末に捻挫だか肉離れだかを起こして自宅のアパートで在宅ワークしてる、
って聞いたから、日頃の恩だの借りだのもあるし、私もちょっと急だけど、リモートの申請出して先輩のアパートに様子を見に行ってみたら、
先輩は普通にお昼ご飯の準備してるし、歩く時どっちかの足をかばってる様子も無いし、ベッドの上では「エキノコックス・狂犬病対策済」の木札を首からさげてる子狐がヘソ天してるし、
本人に「どしたの」って聞いたら、「治った」、「多分気のせいだった」って言われた。
捻挫と肉離れって簡単に治るもんじゃないと思う。
どしたの。何があったの。
「そもそもお前、どこから私が『足を捻った』なんて情報拾ってきたんだ」
せっかく見舞いに来てくれたからって、先輩はお得意の、ちょっと低糖質なパスタを出してくれた。
「隣部署の宇曽野か?まさかこのアパートの管理人じゃないだろうな?稲荷神社の狐とか冗談はよせよ」
元々は、100g食べたって糖質30gにも満たない、バチクソ優秀な低糖質のやつを使って作ってくれてたやつだ。
3週間くらい前、たしか12月9日近辺のことだと思うけど、製造元がその乾燥パスタを「おいしくリニューアル」して、塩分量がバチクソ多くなっちゃったから、今は、他のパスタよりは糖質少なめって程度の、全粒粉パスタが、代用品として使われてる。
低糖質麺の、低塩分なパスタ。需要はニッチ。
売るためには時々「おいしくなってリニューアル」をしなきゃいけない。
相当「いや、ウチはこの味で/この形で/この方法でずっと通すんだ」って強い信念が無きゃ、
商業品で、変わらないものは、無いんだと思う。
「宇曽野主任が、『お前の先輩、昨日の夜、俺の目の前で足腰捻って、痛そうにしてたぞ』って」
わかめスープの素と小さくされたミンチ肉、それから少しの大葉とアマニ油で、たらスパみたいな風味になってるパスタを、くるくる。
「てっきり私も主任も、捻挫とか、肉離れとかだと思ってたのに。来てみたらコレだもん」
プリン体少ないし、塩分ちょっとで済むし。たらスパモドキはなかなかにアリだと思う。
「うん。先輩の料理、変わんないね。おいしい」
「これでも色々、変更箇所は有るんだがな」
野菜じっくり煮込んだらしいベジスープをよそいながら、先輩が言った。
「ところでお前、油揚げ食うか?諸事情で大量に手に入ったんだが」
「油揚げ is なんで」
「お前と同じく見舞いに来たやつが、昨日居てな。約200年、変わらない製法で、伝統を守って作られているそうだ。炊き込みご飯が美味かった」
「新人ちゃん?」
「『稲荷神社の狐』と言ったら、お前どうする」
「はいはい冗談冗談。で?」
「子狐触るか?」
「さわる」
「『クリスマスの過ごし方』?イブ前から足腰捻挫して、ベッドで準寝たきり状態だわ」
早く来い来いお正月。どうせ大晦日まで急性期。某所在住物書きはスマホを見ながら、ぼっちのクリスマス翌日に悪態をついた。
早めの、かつ、◯年ぶりの冬休みは、ぼっちでスマホくらいしか楽しみが無く、ただリア充どもへのネチネチを吐き続ける。
「こんな中で、クリスマスネタなんざ考えつくかっての。チキショウ。腹いせに『クリスマスに捻挫しました』のネタ書いてやるッ」
八つ当たりのターゲットにされた物語のキャラクターには、酷いとばっちりである。
――――――
あと数日で大晦日、お正月。皆様ご予定いかほどでしょうか。
お題配信から十数時間、もうクリスマスの「翌日」になってしまいましたが、まぁまぁ、こんなおはなしをご用意しました。
12月25日のクリスマス、夜、都内某所。
某アパートの一室の、部屋の主を藤森といいますが、
物書きの理不尽な当てつけのせいで、ベッドで大人しく、地味な痛みに耐えておりました。
「おかしいな。強く捻ったつもりは、ないんだが」
ごくごく軽度に、足と腰の筋肉だか筋だかを損傷してしまったのです。歩くとちょっと痛いのです。
藤森はぼっちで、休日も平日も仕事を優先に行動するようなシゴトムシでしたので、
ぶっちゃけ、クリスマスに特定の場所への予約なんて、特定の人との約束なんて、たったのひとつも入れていなかったので、
25日はただ単純に、おとなしく、RICE処置をそこそこ忠実に守ってベッドで安静にしておったのです。
そこにひょっこり現れたのが、言葉を喋る不思議な子狐。お得意様の藤森に不思議なお餅を売りに来る、稲荷神社在住の子狐です。
随分唐突ですね。気にしてはなりません。
随分トンデモ展開ですね。気にしてはなりません。
コンコン子狐のカワイイは、全部を解決するのです。
この前、9日前、先週の12月17日だって、この子狐が藤森の風邪を、不思議な不思議なお餅のチカラで、バッチリすっかり1日で、キレイに治してしまったのです。
「おとくいさん、ごはん、ごよーいできました」
子狐コンコン、割烹着など着て三角巾もつけて、藤森のベッドに和食なお盆を持ってきました。
「おとくいさん、先に、お揚げさんの味噌コンニャク詰めと、お揚げさんの炊き込みごはん、どーぞ」
尻尾をビタンビタン振り回し、お耳をぺったん幸せに隠して、子狐は和食なお盆を藤森の膝の上に、
置こうとして、なんか無理だと結論付けて、とりあえずベッド近くのボックススツールの上に置きました。
「子狐。おまえ、いつもどうやって私の部屋に入ってくるんだ」
「おそと」
「それは分かる。外から、どうやって部屋に入ってくるんだ。防犯カメラは?ドアの二重ロックは?」
「キツネ、うそつかない。キツネ、おそとから、おとくいさんのおへやに来る。
お揚げさんどーぞ。おもちどーぞ」
「おい。やめろ。口に押し込もうとするな」
ぐいぐいぐい、ぐいぐいぐい。
寝たきりでごはんを食べられないであろう藤森に、ゴロッと大きな油揚げの巾着を、あるいは捻挫をたちどころに治してしまう不思議な不思議な煮込み餅を、そのまま食べさせようとする子狐。
自分で食う、大丈夫、ありがとう餅で窒息は正月の悪しきネタだから今はカンベンしてくれ。
藤森は必死に、なるべく子狐の好意を傷つけないように、お餅と油揚げ巾着を押し戻すのでした。
おしまい、おしまい。
「ぶっちゃけ、『イブの夜』っつったって、コレ投稿してるのイブの次の日の夕暮れだけどな」
まぁ、このお題が来るのは予想してた。某所在住物書きは自室でパチパチ、鶏軟骨の塩焼きを作り、ちまちま独りで食っている。
イブの夜をネタにしたハナシなど、その夜の過ごし方程度しか思い浮かばぬ――特にクリスマスイブの。
「他に『イブ』って何あるだろうな。イブって名前の人の夜とか?それとも某パラサ◯ト・イヴとか?」
3作目、PSPのやつ、俺は「3作目」と認めちゃいないが、レンチンバグには世話になったわ。
物書きは「イブ」をネット検索しながら、ぽつり。
……そういえばこの名前の鎮痛薬があった。どう物語に組み込むかは知らないが。
――――――
クリスマスイブだ。
東京に雪は無いし、しんみりできる雰囲気も無い。
ただ人が溢れて、あちこちLED電球だの液晶ディスプレイだので飾り付けられて、
良さげなホテルだの高めのレストランだのが賑やかになるだけ。
ストリートピアノでは、ちょっと気の早い誰かが某戦メリ弾いて、そこにバイオリンだかビオラだかが混じってる。
はいはい、カッコつけカッコつけ。
でも、すごく演奏が上手くて、つい聴き入って、なんか動画まで撮っちゃった。
雰囲気と顔が、ウチの職場の先輩と隣部署の主任さんに似てたけど、
主任さんはともかく、ピアノ弾いてるそのひとが、先輩である筈が無かった。
ついさっきまで一緒に居た先輩に、着替えして白百合の飾りを胸につけて、私に先回りしてピアノを演奏できる筈が無かった。 結局、誰だったんだろう。
「人間って、世界に自分に似てるひと、3人居るっていうじゃん?それだったんじゃないの?」
ホテルでも高めのレストランでもない、ただの、どこにでもある牛丼屋さん。
そこで待ち合わせて、一緒にちょっと高めのチキンカレー食べようってハナシをしてた元執筆仲間に、
ここに来るまでにこんなことがあって、
って話題を出したら、「もしかして:3人のうちの1人」って言われた。
「で、その『本物の』先輩さんとは、どういう経緯で今日会って?」
「クリプレ貰った」
「まじ?」
「ほうじ茶製造器もとい茶香炉。ずーっと昔、数ヶ月前、『処分しちゃうくらいなら私にちょうだい』って先輩に言ってたやつ」
「ごめん知らない」
「つまりアロマポットのお茶っ葉版」
はぁ。左様で御座いますか。
執筆仲間ちゃんはキョトンとして、小さなため息ついて、すぐカレーをスプーンでパクリ。
私がバッグから、厚紙製の小箱を取り出してテーブルに置くのを、それとなく見てる。
「だいたいなんでも、ティーキャンドルの熱で焙じてほうじ茶風にできるんだってさ」
先輩は紅茶とかブチ込んでた。香炉を見る仲間ちゃんに、私は補足した。
「すごく昔だったの。『私にちょうだい』って。
……意外と覚えててくれてたんだな、って」
別に深い意味は無いけど。仲間ちゃんにつられてため息を吐く私を、仲間ちゃんはやっぱり、興味津々の目で観察してた。
「まんまアロマポット」
「だからアロマポットって言ったじゃん」
「買ってあんまり美味しくなかったクリスマスティーとか、入れたら仕事してくれるかな」
「ごめんその『クリスマスティー』分かんない」
「クリスマスに飲むお茶」
「だろうね。だろうね……」