「某値段以上だか異常だかの家具屋と……今は某無印なブランドにも、どこでも結構『着る毛布』って普及してきたじゃん」
手ぶくろ。手袋か。某所在住物書きは一度、ため息を小さく吐いてスマホの通知文を見た。
「その生地で、『着る毛布』の手ぶくろ版とかインナーコート版とか、あったら需要あると思うんだ」
今年は暖冬とのことだが、それでも何でも、冬の手足は冷えやすい。
某〼ウォーム級の保温性を持つ手ぶくろは、どこかに需要があるのでは。それが物書きの持論であった。
「理由?」
ぽつり。物書きがひざ掛けのズレを直しながら言う。
「だって寒いもん」
――――――
例年より、比較的、ある程度、そこそこ微妙に暖かいらしい年末の昨今、いかがお過ごしでしょうか。
「手ぶくろ」がお題ということで、都内の稲荷神社に住む子狐と、手ぶくろの童話にまつわるこんなおはなしを、ご用意しました。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、そのうち末っ子の子狐は、まだまだホントの、ガキんちょ子狐。
いっちょまえの化け狐、善良な御狐となるべく、不思議なお餅を作って売って、人間の世を学んでいる真っ最中です。
そんなコンコン子狐は、お花や、お星さま、キラキラしたものにフワフワあったかいものが大好き。
人間の世界でそういうキラキラフワフワしたものを見つけては、しっかりお耳と尻尾を隠して、ばっちり人間の姿に化けて、餅売りで貯めたお駄賃握りしめ、これください、と集めておったのでした。
あるいはマナー悪い人間が神社に捨てていくのを、ちょいと失敬しておったのでした。
そんなガキんちょなコンコン子狐、お家の本棚の蔵書で、気になっている絵本がありました。
狐童話の傑作のひとつ、『手袋を買いに』です。
雪積もった森に住む子狐が、夜の町にやってきて、人間からあったかい手袋を買うおはなしです。
「手袋、手ぶくろ、ほしいなぁ」
子狐コンコン、自分の小ちゃい小ちゃい前足をまじまじ見つめて、ポツリ言いました。
子狐は都内から出たことが一度もありません。
深い深い積雪も、しもやけの冷たさや痛さも、あんまりよく知らないのです。
「きっと、フワフワで、あったかいんだろうな」
でも子狐、絵本の中の子狐の、町で買い求めた温かい手ぶくろが、羨ましくて羨ましくてたまりません。
「まねっこしたら、売ってくれるかな」
幸福な嫉妬、善良な羨望が積もりに積もって、とうとう我慢が限界突破の完凸な子狐。
いつもお餅を買ってくれるお得意様な人間に、「『手袋を買いに』ごっこ」を敢行しようと、
トテトテ、ちてちて。移動を開始しました。
小ちゃい子供って、「自分は◯◯だ!」と思ってごっこ遊びの世界に入り込むこと、ありますよね。
この子狐も結局はガキんちょ。いっちょまえの子供だったのです。
――で、困ったのがこのコンコン子狐に、「手袋を売ってくれる人間」の役を勝手に割り振られてしまった人間です。
「……こぎつね?」
ピンポンピンポン。
コンコン子狐の稲荷神社の近く、某アパートの一室の、インターホンが鳴りました。
「何がしたい?何を私に期待している?」
モニターを見ると、いつもの、例の不思議な餅売り子狐が、ちょこん、カメラの前におりましたので、
ドアを開けてやりますと、
何故かそのドアの後ろに、ピョイッ!すっかり隠れてしまって、
小ちゃな小ちゃな右手だけ、すなわち子狐の肉球かわいらしい右前足だけ、部屋の主に見せるのです。
「このお手々に、」
コンコン子狐、絵本で覚えたセリフを言います。
「ちょうどいい手袋ください!」
部屋の主、ここでやっと、ピンときました。
アレだ。自分が小学生の頃、たしか国語の教科書に掲載されていた。『手ぶくろを買いに』だ。
何故手袋を売る帽子屋役をやらされているのだろう。
チラリ。ドアの向こうの、隠れているつもりな子狐を、部屋の主が確認します。
いつも不思議なお餅を売りにくる不思議な子狐は、それはそれは幸せにお耳をペッタンして、尻尾をブンブン振り回しておるのでした――
「子狐。非常に申し訳ないが私に手芸スキルは無い」
「おかね、有ります」
「……ペットショップの子犬用既製品は許容範囲か」
「やだ」
12/28/2023, 5:39:26 AM