柚月。

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1/29/2024, 2:48:23 AM

街へ #35

また私は一人で深い夜の街へ駆けていた。
晴架に呼ばれたわけではない。
夜の風を浴びたかったわけでもない。
ただ独りで満たされない心を満月で満たそうとした。それ以上の意味はない。
私みたいに太陽に頼らないと輝けないから。
私は自分と月を重ねてしまう。
私と一緒にしないでほしいと言われてしまうかもしれないけれど、私と月は違う。
そんなことは分かっているよ。
私は誰かの相談にしかのれないし、多分いらなくなったらまた捨てられるだろうなという怖さがあるけれど、月はずっと空にいる。
私たちに安らぎと優しさをくれる。
捨てられたりなんかしない。
いつも私たちを見守ってくれている。

1/22/2024, 4:59:04 AM

特別な夜 #34

あぁやっぱり私には言えそうにないや。
本当の気持ちなんて伝えたらまたあの人に甘えてしまうだろうな。
もう終わりにしたはずの関係に縋れないのにまた縋ろうとしてしまう。
何も得られないのに。
そんなこと自分がよくわかってるはずなのに。
最後まで言えなかった"ありがとう"をまた心の中で腐らせて。
そんなことをしているから私の誕生日の特別な夜になってやっと気づく。
私はあの人がいないと何もできないんだってことを。
ここにあの人がいないことが何よりの証拠。

1/19/2024, 3:13:37 AM

閉ざされた日記 #33

いつからだろう…
私がペンを握らなくなったのは、
いつからだろう日記帳を開かなくなったのは、
最初は亜紀ちゃんにすすめられて買った日記帳。
私の思い出になるはずの日記帳でいっぱい書くつもりで可愛いのを買ったのに、気づけばホコリを被っていた。これは別に悪いことじゃないはずなのに罪悪感を覚えていた。あんなに輝いて見えた日記帳の表紙が今はうるさく見える。秋から冬になって私は亜紀ちゃん以外にも静玖ちゃんという新しい友達ができた。友達になるきっかけなんて些細なことできっかけは、朝の電車であいさつをしたのがきっかけだったかな。そういえば亜紀ちゃんにも六花ちゃんという新しい友達ができたみたいで最近はその四人で集まることが増えて、いつのまにか閉ざされた日記。
最後に書いたのはいつだったかな。

1/15/2024, 4:24:05 AM

どうして #32

「私、木場晴架は7年付き合った彼とお別れしました。」
そう言い放った晴架の目にはもう涙はなかった。
あなたはどうしてそんなにスッキリした顔で告げられるの?
どうしようもないことなのは仕方がないのかもだけど、私はそんなにスッキリできないよ。

やっぱりそれはお別れのしかたなのかもしれないなと晴架の家をあとにしてゆっくりと帰路について考えたりした。
穏便ではない一方的な別れ方。
浮気をしていた相手も相手だけどもっといい別れ方があったのかもしれないと今更ながらに思う。
今夜も星は見えなかった。

1/12/2024, 9:08:02 AM

寒さが身に染みて #31

泣き疲れた僕はふと顔を上げあたりを見渡した。
すると、本棚の一角にカメラと父親が好きだった写真家長月良の写真集と母親が好きだった画家長月夜の絵画集が置いてあった。
父親は写真を撮るため、母親は絵を描くため色々な場所に連れて行ってもらったものだ。
この写真集[九月の景色]は他の写真集と違い写真とその景色を色鉛筆で描いた絵が載っていて7年前に出版された時の写真集の帯には"長月親子の初写真集!写真と絵の最高の傑作ここにあり。"と書いてあったのを思い出した。
この写真集の影響で母親は絵を描き始めた。
その写真家の名は長月良、画家の名は長月夜。これは九月の季語良夜から取ったものだとあとがきに書いてあった。
絵を描く界隈にいる者に長月夜を知らない者はいない世界的に人気で名の知れた画家だったが写真家長月良の行方が分からなくなってその数日後長月夜の行方も分からなくなってしまった。
それが起こってから父親は写真撮影をやめて、母親も絵を描くのをやめてしまった。
それでも僕は長月夜に憧れていた僕は初心にかえって絵を描き続けた。年齢が上がるにつれその画集以外に描かれた絵があることを知り、その絵を参考に自分の色を足していき僕の絵を完成させていった。
その時間が何よりも幸せで楽しかった。
その後、両親は離婚し妹は親戚の家に引き取られて僕は広い家に独りぼっち。
ぽっかり空いた心の隙間から寒さが身に染みてきた。
モノクロになった僕の日常を誰か彩ってくれよ。

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