休憩するのにちょうどいい花がある。
モンシロチョウがその花にとまろうとしたとき、アゲハと鉢合わせになった。
モンシロチョウは、どうぞとその花を譲る。
アゲハは「ありがとう」と美しい羽根をヒラヒラと翻した。
「あのときのお礼」
と、恋人ではない彼女はぼくにキスをした。
揺れる前髪がヒラヒラと美しい。
「優しくしないで」と言われたけれど、優しくした記憶がない。
とりあえず「ごめんね」と謝ったら、
「だから、優しくしないでよ」と念を押された。
だから、優しくしてないんだけど。と言うのはやめておいて、泣き止むのを待つことにした。
「優しくしないでって言ってるでしょ……」
優しくしないのは、難しい。
(してないけど)。
流れ星を一つ、流してもらえませんか?
流れ星屋に注文が入った。
注文した人にしか見えない星を、夜空に流すのが「流れ星屋」の仕事。
「わざわざお金を払って、願いをかけることって変じゃない? そのお金で願いを叶えればいいのに」
流れ星屋の子どもは、父親にそう言った。
「そのお金で夢を見たいんじゃないかな」
子どもが首を傾げたとき、流れ星が一つ流れた。
願いはないけど、とにかく綺麗だと、子どもは見惚れた。
「今日の心模様です」
天気予報のコーナーで、キャスターが言った。関東地方、日中はよく晴れますが、夜は雨となるでしょう。と何事もなく続けたので聞き間違いだと思った。
今日のデートで振られて、夜には泣きはらしていることを、このときはまだ知らない。
待ち合わせの本屋さんで、ぬり絵のページを眺めている彼女を見つけた。
「ぬり絵、好きなの?」
気が付いた彼女が振り向いて、「懐かしいなって思って」と答えた。
「ぬり絵が懐かしいの?」
「そうじゃなくて、わたし、こういうふうに見えていたから。世界が。何色も付いてなかったの」
今は色が付いてるよ、あなたと出会ってからはね。と付け加えたけれど、それはぼくも同じだと、彼女は知っているだろうか。