9/10/2022, 11:18:51 PM
満月って、次の日からは欠けていくんだよね。
余命幾ばくもないのを知っているあの子に、
なんと言えばいいのかとわたしは迷っている。
あ、でもそうか、とあの子は頷く。
欠けているんじゃなくて、欠けてるように見えるだけか。
そう言って笑う。
あの子がいなくなってから、満月の夜はそのことを
思い出す。思い出すと、わたしの欠けていたものが埋まる気がした。
9/9/2022, 11:06:56 PM
何も書いてない手紙が届いたら、怖いと思う?
という質問に彼女は目を輝かせた。
え、なにそれ、面白い!
面白い?
面白いよ、だってそれ、炙り出すとか、水で浮き出るとか、太陽に透かしたら文字が見えるとか、そういうのかもしれないじゃん!
そんなこと考えるのは、世界に一人だけだよ。
大げさだなー
手紙の文字が、風にさらわれたことは、しばらく内緒にしておこうと思った。
9/8/2022, 10:41:41 PM
友達から手紙が届いた。
便箋には何も書いてない。
私の胸は高鳴る。
もしかしてこれは火で文字を炙り出すタイプのやつかもしれない。
さっそくライターの火を便箋に近づけるが、文字は出てこない。
もしかしてこれは水で文字が浮かび上がるタイプのやつかもしれない。
水に浸けてしばらく待ってみるが、文字は浮かび上がらない。
うーん、と腕組みをしていると、便箋は水を吸い込んでくちゃくちゃになっていった。
お、おぉ!
便箋はハートの形になっている。
それをそのまま眺めていると、便箋はやがて跡形もなくなくなった。
私はずっとドキドキしている。
9/7/2022, 12:21:22 PM
恋をした
恋をした、と
便箋に書いた。
窓から流れてきた風に
便箋の文字がさらわれた。
恋•を•し•た
空の中を躍るように
文字が舞う。
あなたのもとへ
飛んでいきたい。
9/6/2022, 9:16:57 PM
待ちあわせ場所にアキは来ない。
いたのは、鈴虫とコスモスと十五夜で、
爽やかな風が吹いていた。
ああ、そうか、
ぼくが立ち去る時がきたと、
ナツは思った。