街と言っても、最近は過疎化が進んできて、昔の田舎な風貌が蘇ってきた商店街を歩けば、未だに残る猛暑の余韻が自分を包む。8月の終わりはもう直ぐで、近々祭りや花火大会があるようだ。街の掲示板にはそのポスターが数多く貼られていて、子供たちが燥いでいるのをよく目にする。
今日、外出した理由は一つで、私の大好きなお店の
『陽町店』の商品の替わる日でもあり、セールがある日だからだ。陽町店は、主に雑貨などを販売しており、その他にも週替わりで、様々な種類の駄菓子や、果物、野菜も登場するこの商店街一番の老舗の人気店だ。少し坂になった道を歩く。8月と言えど真夏なのには変わりなく、直ぐに汗をかいてしまうため、中々に大変だ。それでも、頑張るのだ。
すると、ふと何かの香りがした。ああ、柚か。どうりで爽やかな匂いなのか。そんな納得をする。柚の香りは不思議な程に私の心を落ち着かせた。何かの魔法みたいに。近くを見渡すと高幌さんの家の庭に柚ができていた。それでもまだ熟してはいないようだった。暫く何かに取り憑かれたように眺めていたが、いけないと思い、又もや歩を進めた。
後々調べてみると、
ゆずの香りにはリフレッシュ効果や、集中力向上、リラックス効果などがあるらしい。どうりで謎のやる気が出た訳か。いや、それだけではないのかも。
もっと何か、不思議な力があるのかもしれない。
#ゆずの香り
『好き』とか『愛してる』とかが分からなかった。
でも今日、知ってしまったかも。
偶然出逢った人だけど、凄く心惹かれた。
これが、『好き』なのか。
自分は、その人と付き合った。
そしたら自然と『愛してる』と思うようになった。
これが『愛情』か。
人は、無知だ。どんな生物も無知から始まる。
でも、こうやって理解していくものなのだろう。
それだけでも凄いなと思った。
#愛情
子猫が居た。隣家の庭の中で寝ている。
真っ黒な猫で、以前にも同じような猫を見たことがあるので、恐らくその子が親猫だろう。
動物はあまり好かないが、(懐かれないので)悪くはないかもしれない。
子猫って意外と大きいんだなぁ。もう少し小さいのかと思ってた。そんな風に惘惘と考えていると、不意に時間が気になった。あ、仕事いかなくちゃ。
そんな朝。
#子猫
杜若色の髪飾りを着けた少女が居た。
真っ黒の長髪で、月光のような白のフリルが付いた服をきていた。
それこそ小説に出てくるような少女だった。
小路を歩く。葉桜が舞っていた。
綺麗だな、それしか言えない程、綺麗だった。
また、会いたいな。
今は何処にいるのか分からないけど、それでいい。
『また、会いましょうね』
昔聞いた少女の声。
少し曖昧だが、記憶の割には鮮明だ。
懐かしい。
また、会いたい、な。
#また会いましょう
真赤の星が輝いている。青い地球を照らし続ける真赤な太陽。常からその恩恵を傍受して生きている私たちは、その星に今日も感謝しなくてはならない。
宗教というものに関しては実に疎いのだが、これ位の感謝は当たり前だと思っている。母親がそんな人だったからだろうな。今はもう分かりやしないが。
黄昏時とも云うこの時間帯は、私にとって特別なのだ。私が私でいられる時。
私は幼い頃からの夢がある。今はもう半ば諦めているのだが。それは母親みたいな人になるという夢。
でも私ではあの人みたいにはなれない。私にあの慈悲深さはない。叱るときは叱り、褒めるときは褒める、といったものがまるでないのだ。
私では駄目なのだ。八年間の想いで構築された翼は何の意味も持たなかった。羽ばたけない翼など意味はない。私は飼育委員会だったから、毎日と云っていい程、鶏を見ていた。そんな感じ。莫迦にしている訳ではないのだが、今を伝えるにはそれが一番的確だと思ったからだ。私は情けない。哀れな幼子なのだ。誰にも救えぬ、人間を象った何かなのだ。
この時間になるとマイナス思考になってしまうのは私の悪い癖だ。早く治さないといけないね。そんなことを考えているうちに、日も沈んできた。否、別の場所を照らしにいってしまった。太陽が羨ましいと思った。常に誰かを照らすことができる。私もそんな風になりたかったよ。…縋ってばかりじゃ駄目だ!母親みたいになるなら、もっと……!
そうして今の翼をまた、広げるんだ。そしたら、いつかは、きっと、大、丈夫だ、から…。
お願い お母さん
もう少しだけでも私を見ていてよ
貴方が私の翼だから
黄昏時、又の名を逢魔が時という。
お母さんにだって会えるよね。
#飛べない翼