秋風(しゅうふう)
君を季節に例えるなら
間違いなく秋だ
小春日和の暖かい日に
君を見て思った
………
初めは冬だった
君は、冷たい目をしていて
私を見てはくれなかった
氷のような
ガラスの瞳が
陰では、いつも結露していた
次は夏だった
君は情熱的な人だった
夢を追いかけて
全ての力を使っていた
文字通り、全身全霊で
君の髪の毛の一つからも
強い熱波を感じた
それから、春だった
君はそよ風だった
蝶を羽ばたかせ
子供の背を押した
君は朝日を見て
幸せそうに笑っていた
私にとって、暖かい存在だった
いつかの秋の日
君が笑って
誰かに手を振った
秋風が吹いて
寒くなった
秋風(あきかぜ)
また会いましょう
処刑場へ登る合図
カラン
水滴が滴るグラス
氷の音
水の中に静かに沈む氷
泥沼に沈んでいくようだ
…見苦しい
そうなのだろうか?
問いは空間に飽和した
君が手にグラスを持つ
水滴と手汗
「飲まないの?」
このセリフ、何だっけ?
…あれだ!
美しい悪役の女性の…
何かの映画のワンシーンの…
何処かのバーで、主人公に
酒を勧めてた時のセリフ
色っぽくて
つい、見惚れちゃう様な
そんな演技
私も、出来てるかな?
しばしの無言の後、
「ありがとう」
君からのセリフ
これは、予想外だ
生憎、アドリブは苦手なんだ
上手く返せない
してやったり、と
笑う君は、昔と同じ笑顔
私は君の演技に
不覚にも、見惚れた
見惚れてしまった
だから、挨拶を返せず
君は死んだ
………
また会いましょう
この街の可笑しな伝統
毎年、一人を生贄にして
街の幸福を祈るマツリ
生贄に選ばれた僕は
死ぬ為にここに居る
小さな個室
机に置かれたグラス
そこには、即効性の毒が入っている
ただ、それは
普通なら、知らされない情報だ
僕達はマツリを"進める側"の人間だったから
いつも、彼女は言う
「安心してください。
神様は、貴方を待っているんです。
落ち着いて、水でも飲んで下さい」
氷を入れたのは、当て付けか?
…本当に、笑えるよ
君にも僕にも
だから、僕から言ってやる
「ありがとう」
そして
「"また"会いましょう」
スリルを感じるもの
そんなものについて
考えてみた
ジェットコースター
アクション映画
お化け屋敷
生憎、私は
そういうものを避けて生きてきた
要するに、
スリルとは無縁の人生なのだ
これからも
そうだと思う
スリルという言葉は
恐怖というイメージから
私の中では
『避けるべきもの』
という印象になっていた
調べてみると
極度の期待からくる緊張感のことも
指すらしい
そういうものならあるかも
と思って
記憶の中を探っていた
落ちてしまった鳥を
見た事があった
海沿いの
潮風が気持ちいい街だった
木の下にソイツはいた
飛べない羽を動かそうと
必死にもがいていた
自分の巣や、餌の場所にすら
帰る事は出来ない…
素人目にも分かる
コイツはもう、飛べない
………
懐かしい夢だった
昨日、海へ行ったからだろうか
潮風をリアルに感じる程
生々しい夢に感じた
「おはよー」
努めて明るく
空虚な部屋に言う
…この言葉は誰に向けて?
頭の中で浮かんだ問
分からないな…
前は分かった筈なのに
相方を亡くして
早数ヶ月
「おはよう」って
朝が早い君が
私を起こしに来て
私の為に作ってくれた
朝食の匂いがして
「顔洗って」と
タオルを渡されて
洗面所に向かう
そんな朝があった筈なのに
前までは…
私の翼は
半分なくなった
羽の無い鳥が
飛べる筈もないんだ
…馬鹿だなぁ
今なら諦められる
私はもう、飛べない
緑の葉っぱが生えている
川沿いのススキ達
川の水は
雨が少なくなってから
底が見え始めた
不法投棄された
ドラム缶、自転車…
彼らが、姿を現していた
「川に降りて見よう」
君は凄いね
私はすっかり
地面から動けないのに
足を滑らしたらどうしよう
って動けないのに
ススキを掻き分けて
どんどん川の方へ行く
秋に入って
大分過ごしやすくなった
秋風が
嫌な思考を連れて来る
大丈夫かな
心配で堪らなかった
川の方へ降りた後
思いの外早く
君は帰って来た
足と手に
幾つもの切り傷をつけて
「ちょっと痛い」
ヘラッと笑う君は
夕焼けで赤かった