ワーワー
大きな歓声が聞こえる
勇者と聖女、その仲間たちが
魔王を討ち取ったという
祝福の歓声だった
彼女の耳には
その声は届かなかった
彼女は、俯き
勇者達を讃えるパレードの列から
音もなく消えた
彼女は
『元聖女』だった
『元勇者』と共に
世界を救う旅をしていた
彼女は、全てを失っても魔王を倒すという
強い決意があった
…あったのかも、しれない
彼女の瞳は、虚ろで
光を無くしていた
彼女は魔法を使って、
ある場所へ向かっていた
………
『知恵の湖』
昔の勇者が
力を手に入れたという湖
『彼女の勇者』には、
力を与えなかった
理不尽な湖
彼女は、何の躊躇いもなく
其処に飛び込んだ
そして、
其処には
大きな大木が出来た
………
それがこの、『知恵の大木』です
ガイドが語るのは、
辛く苦しかった
『元聖女』の人生
彼女が、勇者達を救う為に
様々な活動をしていると発覚したのは
彼女が死んで
十数年経った後だった
彼女を探していた魔法使いが
探し人の魔法を使って、
彼女がいる場所を突き止めた
と…言っても
彼女は木になってしまったが…
目の前の夫婦は、『元聖女』の人生を聞いて
泣き出していた
何でも、この夫婦の知り合いなんだとか…
…?
ガイドの子の様子がおかしい
なんだか、酷く
苦しそうに見えた
もう一つの物語
解説…?
ガイドの子は、『元聖女』が生まれ変わった姿
夫婦は、勇者と聖女
結ばれて、夫婦になった
二人が結ばれたのは、『元聖女』が救ったから
オマケ?
『元勇者』と『元聖女』の会話
「ねぇ…私は、幸せだったよ」
「…そんな事言わないでくれ」
満足そうな彼女。
不機嫌そうな彼。
「魔王は倒せなかったけど、大丈夫。時間は稼げた。後、数十年は心配なく生きれる…」
泣きそうな彼女。
「なぁ「ごめん」
言葉を重ねて、
彼女は、彼を抱きしめた。
「私達が一緒に生きれる世界は、あったのかな…?」
勇者の姿は、消えかかっていた。
「俺も謝らせてくれ。ごめん」
「なんで君が謝るのよ…私がそうしたのに」
聖女の姿も消えかかる。
もし、あの時、
魔法が私にもちゃんと使われていたら…
ぼんやりと見える
小さな明かり
彼を呼んでみる
やっぱり声は聞こえない
聞こえるのは
星の囁き
月の嘆き
石の諦念
私は此処から動けない…
の、だろうか?
私はそれを幸せだと思っている
………
ランタンの灯りを頼りに
小高い丘を登る
ちらちらと揺れる
小さな明かりは
暗がりを少しだけ照らす
少しの明かりが心地よい
何もしたくない夜に
ただ、明かりだけが動く
暗がりの中で、
私だけが、
呼吸をしている
風が吹いて
私を追い抜く
追いかけっこは嫌いだ
星が光って
私に話しかける
おしゃべりは嫌いだ
なんだか寂しくて
彼の名前を呼んだ
もっと、寂しくなった
彼女は、コーヒーが苦手だ
ココアなどの甘い飲み物を好むが、
ごく稀に
紅茶を飲んでいる時がある
砂糖をこれでもかと入れて
甘々になった紅茶を
一気飲みしている
ソレで
本当に味が分かるのか
いささか疑問ではあるが、
コレが
彼女のマイルールだ
彼女の気分だろうが
紅茶を飲む日は多くないし
僕も特段、
紅茶が好きって訳じゃないが、
そんな日は
紅茶の匂いに誘われて
ついつい
彼女とお菓子を食べ過ぎて仕舞うのだ
………
そう言えば
冷めた紅茶は
苦いと聞くが
彼女は、猫舌だからと
いつも冷たくなるまで冷ましていた
砂糖を足して飲んで…
何か意味があったのだろうか?
愛とは何なのだろうか?
考えてみても分からないし
調べてみてもふわっとしている
誰かを守りたいって事
誰かと一緒にいたいって事
誰かを慈しみたいって事
なんとなく
私には縁のない物のように
思ってしまった
そんな『愛』に
言葉があったなら
好きという
なんだか
確証のない言葉じゃなくて
もっと
私を
心から愛してるって分かる
言葉が欲しかった
愛言葉
全然関係ない蛇足
数分前まで雨が降っていたからか
外は、雨の匂いがした
何となく
寒くて
貴方が入れてくれたココアを
自分で作った
材料は同じなのに
違う物に見えて
口も付けずに
キッチンに置いてきた
言葉は無くても
ソレで伝わっていたはずなのに
いつの間にか無くなったココアは
冷めた心の象徴だった
とある取材の一幕
貴方はあの人の友人なんですよね…!
熱くなる記者の声
記者は、とある一大ニュースの取材の為
あの人の友人である彼女を訪ねた
そこで答えた彼女の言葉は
こんな気の抜けた言葉だった
友達だったのかしら…?
………
私、思い出したの
少しだけ、昔話をしましょうか
私とあの人、
あぁ…あの人
今有名な、作家のあの人
友人ではあったの
でもね、あの人
おかしい人だったから
私が嫌われない為に
あの人、私から距離取ってて
私、あの人と話した記憶
あんまりないのよ
そんな私に取材が来るのは
何故だか
悲しいわ
私にしか、あの人
ちゃんと話をしていなかったのね…
私、ちゃんと向き合うべきだったわ
あの人に…
まぁ…
もう遅いですけど…
………
特大ニュース
某有名作家自殺?
その謎を追う為、友人Aに取材…!
色んな憶説が飛び交う
そんな街の中に
貴方はいる
友達なんて其処には居ない
友達