「あのさー、お願いがあるんだけど。」
「ん?」
「なんか美味しいもの食べたりどっか行ったりしたら、どんどん教えてほしいwそういうの知るの楽しいからさぁ。」
「わかったw」
君は今でも、律儀にこの約束を守ってくれている。
うまそうな飯。味の想像もつかない食べ物。行ったことがある場所。行ったことのない場所。単純にワクワクするので聞きたいという理由が大きいが、君の目を通してそれらを知るのが楽しい。そして嬉しいのだ。
私の喜びが、君の見た景色の分だけ、増えている。
言葉にならないものは何だと考えたとき、
美しいものを思い浮かべられる自分であれ。
あの頃の夏休み、ひたすらのめり込んでいたことがあった。
お絵かきだ。
物心ついたときから絵ばっかり描いていた私だが、あのときは全盛期だった。
オリジナルキャラクターたちをひたすら描きまくっていた。設定を考えたり、オリキャラ同士で絡ませたり、世界観を構築したりするのが何よりも楽しかった。
もはや彼らは、私のかけがえのない友達だったのだ。
イヤホンをつけて、好きな音楽をリピートしながら、ひたすら絵を描く。
そんな夏休みだった。
今でもそのとき聴いていた曲を聴くと、思い出す。絵を描くことが世界のすべてであったかのような、あの真夏の記憶を。
純粋なやさしさなんて、純粋でない私には信じられない。
何かしらの不純物が混じるのだ。
自己満足、計算、自分に酔いしれるため、他人からの賞賛のため、罪悪感を感じないため。
けれどもそれさえも、私にとっては美しい。
むしろ何の混じり気のないやさしさは、やさしさとして認識できないのだろう。
その存在に気づかずに終わってしまうのだ。
だから多少何かが混じっていたほうが信じられる。
心の中の、善と悪とが混じって溶け合う境目。
そこにやさしさがあるのかもしれない。
だから、必要以上に自分を責めなくてもいいのかもしれない。
あの日半分冗談で語り合っていたことが、現実になってしまった。
白に近い水色をした空はどこまでも広がっていて、八月の太陽に照らされた海は絶え間なくきらめく。潮風は磯の匂いを運び、隣には同じ景色を楽しむ君がいる。
夢じゃないよね?