好きになれない、嫌いになれない
【ふとした瞬間】
いつも明るいあなたが、僅かに静止する。
ふと訪れるその瞬間に、はたりと気が付いていつも通りに振る舞おうとする。
(何か、あったな。)
長年、傍に居てようやく解った事。
あなたは、とても人間臭い。
だと言うのに。
ひとたび動揺すると、まるで手負いの獣か気紛れな猫のよう。
(さて、どう気を引いたものかな。)
ぎこちなく常を装う背中が、物悲しそうに見える。
「和真、ちょっと手伝って欲しい。」
そっと気を引くように、手招きした。
「え、何?かっちゃん、何してるの?」
何を隠しているのか、吐き出して流れ出してしまえば、憑き物の様に落ちてくれるだろうか。
「カズくんに癒やされたいので。充電させて欲しいです。」
ひらりと手招きしたら、ふらりと近寄って来たので、そのままあなたを抱きしめた。
「えへへ。かっちゃん、お疲れ様〜。」
背中をあやす様にトントンと叩いて、あなたの香りで肺を満たす。
「和真も、お疲れ様。今日はゆっくり休もう。」
あなたの後頭部を優しく撫でながら、抵抗しようとする体を少しだけ強めに抱き締めた。
「かっちゃーん!うぅ、ズルいよぉ。」
小さく縮こまった体内に凝るモノを吐き出すように、あなたの腕が自分の背中を強く抱き締める。
今は、幼子の様に泣いて。
明日も明後日も戦えるように。
【「こっちに恋」「愛に来て」】
いつも冷静で、周りを良く見ていて、真実を心を見透かすあなたの綺麗な目。
「和真、お疲れ様。今日と明日は、ゆっくり休もう。」
こっちに来てと招く手が蠱惑的で、ふらふらと吸い寄せられる。
(あ、マズイ。)
吸い込まれた先には、大好きで大切なあなたの香り。
「えへへ、や、まって?ヤバい、泣きそう。かっちゃん、ズルいよー!」
あなたの肩口に顔を押し付けて、あなたの香りを嗅ぐと、あなたの大きな掌が後頭部を撫でてくれる。さらに、耳元に優しい言葉が囁くように降り注いで、ビショビショに泣くハメになる。
心の中まで暴くあなたに、隠し事なんて出来ない。
せっかく笑ってやり過ごそうと思ったのに…。 あなたには敵わないのだ。
「どこへ行こう」
ぽっかりと空いたスケジュール。
心も体も空っぽな気がして、何か詰め込まなきゃと焦ってみるものの、何も思い浮かばない。
何を望む?
自問自答してみる。
体は休めた。心はどうだろう?
何か自分以外のものに触れたい。
ありのままの飾らない自然体の…。
あなたの顔が、浮かんだ。
あなたの声が、無性に聴きたくなった。
あなたが居れば、どこへだって。
あなたさえ居てくれるなら、
どんな場所もきっと天国!