【何気ないふり】
親しげに腕を組んで、親密そうな様子で寄り添う2人分の人影。
小柄な女性が組んだ腕を引いて、隣の男性の耳元へ何か囁いていた。
その横顔はとても嬉しそうで、遠目に見ても大層お似合いだった。
(街なかで、知らない誰かと一緒に居る知り合いに遭遇した時は、無闇矢鱈に声を掛けないのが、マナー。)
自分に言い聴かせているのが滑稽で、そっと2人に背を向けて、足早にその場を後にした。
モヤモヤとする負の感情を胸の奥に押し込めたまま、しばらく何気ないふりで日々を過ごした。
(気の迷いは、誰にでもあること。)
理解はしていても、辛いものは辛い。
(どうするのが一番良いだろう?やっぱり、普通に結婚して幸せになって欲しい。)
苦しいけれど、大切な人の幸せは祈りたい。
大切な人の大切な人を守れるなら、この苦しさも少しは報われるのではないだろうか。
(何だって良い。役に立てて、関係を壊さずに近くに居られたら、それで充分だ。)
軽蔑されても、どんな扱いでも良いのだ。
どんな形であれ、あなたが傍に居てくれるだけで、充分なのだ。
【見つめられると】
あなたの漆黒の瞳に見つめられると、
そこに吸い込まれそうな気がして、頬が熱くなる。
眩し過ぎるあなたを前に、何もかも灼け付いてしまう気がして、直視出来ない。
「…何か、付いてる?」
恐る恐る尋ねると、あなたが近付いてくる気配がする。
「何も付いてないよ。キレイだなぁって、見惚れてた。」
視線を逸らしていても、あなたはひたすら真っすぐに自分を見つめている。
「…恥ずかしい。」
頬を挟まれて、視線が合う様に顔を上げさせられる。慌てて、視線を逸す。
穴が空きそうだと、思った。
【My Heart】
覚悟は出来ている、つもりだった。
生半可な気持ちではないと、ずっと思っていた。
相手の気持ちをどうにかしようとも、思わなかったのに。
突然、自分の心がコントロール出来なくなってしまった。
独り歩きしそうな心を抱えて、飛び出そうとする想いを抑えつける。
息が苦しくて、胸が痛くて、涙が出ようとも。
これは、表へ出してはいけないモノだと。
それを容赦なく引き摺り出したのは、あなただった。
【ないものねだり】
ふたりの関係が、まさにそれで。
互いに『ないものねだり』をしている。
きっとデコボコで歪な形をしているのだろう。
だから、上手にくっつきたいと想うし、多少歪んでいてもくっついてしまうのだろう。
「キレイな色、良いなぁ。」
色素の薄い特異な髪と瞳の色。
「…こっちは、羨ましいわ。」
皆と違う事で要らぬ苦労を強いられたと、あなたは嘆く。
「個性なさ過ぎて、逆にイヤ。見分けつかないの、最悪だし。好きな人とお揃いなら良いけど、そうじゃないし!」
染めたいとボヤいて、唇をアヒルのように尖らせる。
「烏の濡羽色…。すごく綺麗だから、そのままで居て欲しい。」
唇を啄むように、あなたはキスをくれた。
※閲覧注意※
IF歴史?
雑な、クロスオーバー?
訳分からんモブキャラが居るよ。
何でも許せる人向け。
《好きじゃないのに》
「あなたは、狡い人だ。」
薄紫色の物憂げな瞳を、ぼんやりと見上げる。
『あなたも、狡い人だと思いますが。』
冷たい手が頬を撫でて、長い指が首筋に絡まるのを、他人事のように感じる。
「私に心を向ける気持ちもないのに、何故訪いに応じるのです。」
狡い狡いと嘆く眼の前の人が、なんだか滑稽でくすりと笑みが溢れてしまった。
「そうやって嘲笑って、楽しいですか。」
首を横にゆるく振って、首筋に絡まる指を掴まえる。
『あなたに届かない、この声が恨めしい。』
大切な人の家族を無碍に出来る訳もないのに。それをあなたはきっと知っている。
解っているだろうに、と思えば、大層狡いのは眼の前の人なのに。
『好きでもない相手をからかうのは、酷い話ではないのでしょうか。』
家族の誰かが興味を持ったから、と興味本位で近づいて来るのは、狡くはないのだろうか。
「思わせ振りな事ばかりして、私を誂うのでしょう。酷い人だ。」
どうやって逃げようかと考えはしても、行動に移せるわけでもなく。
『思ってもいない事ばかり口になさるのは、あなたも同じでしょうに。』
なし崩しに、好き勝手されるのが常なのだ。
ひとつ溜め息を零して、やり過ごそうと決めた。