【ずっと隣で】
あなたに寄り添う、ずっと隣で。
子供の頃は飽きる事なく、ずっと隣で過ごしてきた。
大人になってからの方が、それぞれに仕事があって、距離があるかもしれない。
本当なら、息を吸うように、ずっと隣で過ごしたいのに。
(あぁ。とても、もどかしい。)
息苦しいなんて言ったら、あなたは酷く心配して、きっと甘やかしてくれる。
(ダメ。足を引っ張るのだけは、嫌だ。)
真っ青な空を見上げて、そっとため息を溢した。
※閲覧注意※
それは愛なのか、恋なのか。
綺麗事で済まない何かの話。
色々、彷彿とさせるものがあるかも。
あんまり楽しくないと思うので、嫌な方は回れ右を推奨。
【もっと知りたい】
あなたの事、もっともっと知りたい。
骨の髄まで、指の先や足の先まで、髪の毛の1本に至るまで。
『解体されちゃいそう。』
と言って、あなたは呆れたように笑うのだ。
『痛いのは、嫌だなぁ。』
そう言いながら、あなたは身体を寄せてくる。
あなたを隠すすべてを取り払いたくて、あなたと一緒に融けてしまいたい。
「痛くしないよ。嫌な事も、悲しくなる事もしない。だから、傍に居させて。」
我ながら酷い話だと思う。綺麗事だけで済まない所まで、想いは強く深くなっていく。
「優しくするね。痛かったら、教えて。」
執着なのか、愛なのか、所有欲なのか、わからないまま、あなたの傍から離れたくなくて、しがみついているのだ。
知識欲や好奇心だけではない、不穏な想いも綯い交ぜにして、あなたを知りたいと、煮え返る腸を何とか宥めている。
「愛してる。全部、全部あげるね。もらってくれたら、嬉しい。」
肌を隙間なくくっつけて、あなたを感じていたいのだ。
【平穏な日常】
陽だまりのような温もりと、木洩れ日の下の涼やかさに、似た穏やかさが溢れている。
「幸せだなぁ。」
独りで寂しい想いもせず、大好きなあなたと一緒に居られて、心穏やかに過ごせる。
「しあわせ?今、カズくんは幸せなの?」
隣に居るあなたが、嬉しそうに尋ねる。
「ぼかぁ、しあわせだなぁ。」
往年の名優が呟いた台詞を、真似てみた。
「…幸せなら、良かった。」
あなたは、ピンと来ない様だけれど、嬉しそうに微笑んでくれる。
「かっちゃんが居てくれたら、それだけでいいんだ。」
あなたとふたり、平穏な日々が過ごせたら、それだけでもう幸せ。
【愛と平和】
あなたには、いつだって敵わないと思う。
不意に携帯電話が鳴動する。
画面には、あなたを示す表記。
『お肉食べたくて、お肉屋さん来てる。いつものタレに漬けてあるヤツ、どっちが好きとかある?あ、今日のオススメは塩レモン!』
あなたの声が聴こえてきて、無条件で嬉しくなる。
「両方好き。タンなら塩だけど、味噌も美味しいから。嫌いなものはないなぁ。塩レモンも美味しそう。」
朝の挨拶や会話で判るのか、あなたはきっと何かを察したのだろう。
『解った。腹ペコで、早めに帰ってきて。焼き肉パーティするから。焼いて待ってる!』
今日のスケジュールを再確認して、帰れそうな時間を伝える。
「帰る前に、また連絡する。ありがとう。」
あなたには、何でも見透かされていて、本当に敵わない。
「カズくんから、連絡があったのか。うん、早く帰らないとだな。必ず、定時で上がるぞ。そして、私も一緒に帰る。…我が家の夕食が同じでも、構わんだろうか?」
スケジュール管理をしてくれている人に報告すると、ふたつ返事で了承して貰えた。
帰りを待つあなたの為にも、絶対に帰るのだと決意も新たに、午後の仕事に取り掛かる。
【過ぎ去った日々】
過ぎ去りし日々よ。
幸せな思い出も悲しく辛い思い出も、少しずつ褪せて行くものと言われている。
時薬、時間が解決してくれる等と人は簡単に言うけれど、そんな都合の良い事は、ない。
魘される声で目が醒める。
隣で眠るあなたが、顔をしかめて身を固くしている。
「かっちゃん、起きて。戻っておいで。」
強張る体を抱えて背中を擦っていると、強張った腕がぎゅうぎゅうと縋ってくる。
「…カズ、ごめん。ありがとう。」
縋る腕は、落ち着くと弛んで離れていく。荒い息もゆっくりになっていく。
「大丈夫、大丈夫だから。」
忘れたいのに忘れられない。
それでも藻搔いて、忘れようとする。
そんな繰り返しを、ふたりで宥め合い、歩んできた。
これからも、ずっと。