【過ぎ去った日々】
過ぎ去りし日々よ。
幸せな思い出も悲しく辛い思い出も、少しずつ褪せて行くものと言われている。
時薬、時間が解決してくれる等と人は簡単に言うけれど、そんな都合の良い事は、ない。
魘される声で目が醒める。
隣で眠るあなたが、顔をしかめて身を固くしている。
「かっちゃん、起きて。戻っておいで。」
強張る体を抱えて背中を擦っていると、強張った腕がぎゅうぎゅうと縋ってくる。
「…カズ、ごめん。ありがとう。」
縋る腕は、落ち着くと弛んで離れていく。荒い息もゆっくりになっていく。
「大丈夫、大丈夫だから。」
忘れたいのに忘れられない。
それでも藻搔いて、忘れようとする。
そんな繰り返しを、ふたりで宥め合い、歩んできた。
これからも、ずっと。
【お金より大事なもの】
お金より大事なものは何か、と訊かれてあなたは何と答えるのだろう。
「え?かっちゃん。」
尋ねれば、即答する自分の呼び名。
「これって、無人島に行くなら何を持って行く?みたいな質問?」
訊き返したいと書いてある表情に、苦笑いして首を横に振る。
「お金で買えないものがたくさんあって、決められなくて。で、訊きたかっただけ。」
あなたの事はもちろん大切だけれど、お金で買えないものは他にもたくさんある。
「でも、カズくんの答え聴いて、同じだなって思った。」
人との縁、思い出、命、存在、愛情、心。
自分の周りは、大切なもので溢れている。
「えへへ、お揃い、嬉しいなぁ。」
照れ笑いのあなたが愛おしくて、そっと抱き締めた。
月も星も大好きです!
ロマンがありますよね!←
『月夜』
空にプカリと浮かぶのは、少し太ましい三日月型のお月さま。
まるで夜の闇を渡る一艘の船。
あなたが好きなお月さまの形。
月影は清かに、月が渡り行くのを静かに見守る星たち。
暗い夜道をささやかに照らし、瞬く星々の邪魔をしない穏やかな光。
それは、密やかなる想いを、孤独や心の傷を、優しく包む様だとあなたは云う。
月は満月に限ると思っていた自分も、あなたの影響を受けたのか、三日月も良いと思うようになっている。
夜空に浮かぶ三日月を見上げて、愛しいあなたを想うのだ。
【絆】
産まれてからずっと、多くの時間を一緒に過ごしてきた。
切っても切れない縁は、やがて互いを固く結ぶ絆になった。
良い事も、悪い事も、楽しい事も、悲しい事も、全て引っ括める事は難しいけれど、出来たら一緒に感じていたいと想う程、ずっと傍に近くにありたい。
(体が邪魔、なんて事、本当に想えるんだなぁ…。)
現実は小説より奇なりとは、良く言ったものだ。
「ずっと一緒に居たいなぁ。」
独り溢した呟きは、空に溶けて消えた。
【たまには】
働き者で、出掛けるのが大好きなあなたに。
『たまには、家でのんびり過ごす?』
出不精で、人混みが苦手なあなたに。
『たまには、何処かへお出掛けしよ?』
それぞれが相手を思って、かける声。
それは、自分の好きな事を一緒に出来たら、嬉しいと思う気持ちでもある。
疲れが色濃く見える時は、何もしない日があっても良いと思うし、塞ぎ込みがちな時は、気晴らしに違う空気を吸いたいと思う。
独りになりたい時は、家の中でも少し距離を置いて。
そんな積み重ねが、ふたりの生活を形作るのだ。