【欲望】
いつからか、大切なあなたを欲しがる様になっていた。
自分の異常性に怖くなって、目を背けようとした。
(駄目だ。壊してしまう。)
同じく壊れるなら、せめて良き友人のままで居たいと、願っていたのに。
「ごめんね。離れたくても、離れられなくなっちゃった。オレが、欲しくなっちゃったの。だから、ごめんね。」
均衡を崩したのは、第三者で悪い大人だった。
ギリギリで繋いでいた理性は辛うじて、あなたに嫌われないようにだけ働いて、他は全てあなたを囲う為に費やした。
我ながら酷いとは思いつつ、最大限あなたを愛して護りたいと想った。
【列車に乗って】
その列車に乗れば、終着駅が旅の目的地。
なかなかない旅程だが、複数の路線が相互に乗り入れていて、大変に便利でもある。
ひたすら列車に揺られて行くので、少し良い席のチケットを取った。
ふたり並んで座り、車窓を眺めたいあなたを窓際にして、あなたごと景色を眺める。
お腹が空いてきたら、少し遅めの朝ご飯。
握ってきたお結びを出して、頬張りながら車窓を楽しむあなたの嬉しそうな背中を見詰めていた。
「楽しいね。眠たくなったら、眠って良いよ。最後の駅まで行くから。」
出掛ける時は必ず、景色を良く見ているあなたが、眠ったまま目的地に辿り着くことは一度もない。
「眠るのが、惜しい。」
良い景色だから、寝たくない。
そう言っているようで、笑ってしまう。
「疲れているなら眠って。起こすから。」
真剣にちゃんと起こすから任せろと言ってくれる。
「ありがと。寝てたら、起こして。」
自分で運転しない列車に揺られると、心地好く睡魔が手招きしてくる。
「ゆっくり休んで。」
睡魔と戦う自分を知ってか知らずか、あなたは上着をこちらに掛けてくる。
遠くで、嬉しそうに口角を上げて笑う気配がする。
【遠くの街へ】
「温泉…。行きたいなぁ。」
見るともなしに点けっ放しの旅番組を眺めていたら、ぽつりと零れていた。
「ここ、電車で行ける…。行く?」
リモコンを操作しているあなたが、録画を選択している。
「ここじゃなくても、良いし。」
ゆっくり出来れば、温泉じゃなくても良い気がして、ぼんやりしていると、そっと腕を掴まれた。
「ゆっくり出来る処が良いな。泊まって、のんびりしたい。…って、思ってる?」
驚いて目を丸くしたら、あなたは悪戯が成功した時みたいに得意げに笑う。
「顔に書いてある。北でも南でも、東でも西でも。どこでも良いよ。一緒に行って、ふやけるまで温泉に漬かって来よう。」
嬉しそうに日程確認をし始めるあなたにつられて、あれよあれよと言う間に旅程が決まっていた。
久々にもぎ取った長期休暇を最大限活用し、素敵な温泉街を持つ温泉地へと旅立った。
今がその時じゃん!ってやつ(笑)。
『現実逃避』
今一番、手近でやりたい事。
たった今、やってるな。
拙い妄想に近い、底の浅い想像力を駆使して、書いては消しを繰り返して、なんとか形にする。
現実を織りまぜたり、ただの妄想を書き留めたり。
うん、楽しい。
あとは、この秘密を共有している皆さんと、会ったり話を聴いたりするのは、とっても楽しいので、それもあると嬉しいなぁ。
今が落ち着いたら、会いに行きたいね。
【君は今】
あなたは今、何をしているだろう―――。
「お仕事、終わったかな。」
怪我なく、無事に帰ってきてくれたら、それで良いのだ。
「早く逢いたいな…。」
逢えない時間が、酷くもどかしい。
あなたは今、何をしているだろう。
何か作っているだろうか。
まだ忙しく仕事をしているだろうか。
移動中に立ち寄った売店で、目に止まったものを抱えて帰る。
(気に入ってくれると良いな…。)
今度は、あなたとふたりで一緒に来て、一緒にお土産を選びたいと思った。
元気よくおかえりを言って、出迎えよう。
ちゃんとただいまを言って、帰ろう。
お互いを労うために。