Pomu

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2/17/2023, 10:50:53 AM

お気に入りだったお人形を捨てる時

手を離すのはどちらだと思う?


宝物だったものがゴミに変わるとき

汚れたのはどちらだと思う?



大人になることは素敵なことよ

愛もお金も両手に余るほど


だけど一人きり目を閉じてしまえば


もう色鮮やかな夢は見えない

大人になることは侘しいことね

2/10/2023, 12:03:58 PM


ある面では誰もが正しく
またある面では誰もが間違っている

そんな不確かで曖昧なものを

私たちは正義や常識や愛などと名付け
ただ一つの正解を探し続けている

2/1/2023, 9:53:11 AM

【旅路の果てに】



思えば、長い人生だった。

男は来た道を振り返り、独りごちる。


一番嬉しかったことは?

一番悲しかったことは?

そんな問いがいかに無粋で無意味であるか、男は今、身に沁みて感じている。


人生という旅路の中に、優劣や順位をつけられるものなど何もない。

全てが刹那的で、そのどれもが大切だった。

身に余るような幸福も、耐え難いような悲しみも。



終着点は近い。

その先にはもう、道はない。


ぼんやりと、人影が見える。


あぁ…ようやく、この旅も終わる時が来たのだ。





『久しぶり。待ちくたびれたよ』



少し呆れたように微笑むその笑顔は、あの日から少しも変わっていない。

ずっとここに存在して、今日の日を、待ち続けていたのだ。



『すまない、随分と待たせてしまった』



男は、皺の刻まれた目元を柔らかく細め、微笑んだ。

年月を刻み、頼りなく細くなった男の腕を支えるその指には、真新しい銀の指輪が光っている。



男の指に光る指輪もまた、かつては同じ輝きを放っていたのだろう。


年月は、その恐ろしい力で全てを変えてしまう。

人は老い、草木は枯れ、何もかも朽ちていく。


それでも変わらないものが確かにあることを、今、固く結ばれた二つの手が物語っている。



長い長い旅路の果て、変わらぬ想いだけが、ただ此処に在った。

1/25/2023, 6:43:42 AM

【逆光】



夕日を背に、君はつぶやいた。

「一つの恋が終わった」

逆光に照らされて、君の表情はよく見えなかった。

だから僕は君が、泣いていると思ったんだ。



あの日の夕日は眩しかった。

君の哀しみも、心の行方も、何もかもぼやけてしまうほど。



夕日を背に、僕はつぶやいた。

「一つの恋が終わった」

逆光に照らされて、僕の表情はよく見えないだろう。

だから君は僕が、笑っていたと思っててほしい。


今日の夕日は眩しかった。

僕の強がりも、心の行方も、何もかもぼやけてしまうほど。


1/20/2023, 2:58:05 PM

【海の底】




「どうしたの?ぼーっとして」



大きな青い瞳が私の顔を覗き込む。

隣国からやって来たこの美しい女性は、数ヶ月前、沢山の国民が見守る中、私の妻になり、そして我が国の王妃となった女性だ。

その日は、どこもかしこも夜通し宴が行われ、祝いの声が止むことがなかった。

今でも、彼女は時折話題にする。

あんなに祝福されたことは、人生で一度もなかったと。



「いや、何でもない。行こうか」



彼女の細くしなやかな手を取り、庭を散策する。

美しく咲き誇った花々が、甘い香りを漂わせている。

楽しそうにドレスの裾を揺らす彼女とは裏腹に、私はまたも、宙へ視線を彷徨わせた。



そういえば私はあの日も…今のようにどこかぼんやりとした気持ちで、彼女の横に立っていた。

国民の祝福の声も、ざわざわと、まるで遠い波音のようで。



私は、きっと彼女を愛していない。

『愛』というものを考える時、なぜか私の頭の中には、見知らぬ光景が浮かぶのだ。

ゆらゆらと揺れる水面、海鳥の鳴き声、潮風に靡く金色の髪、美しい歌声。



誰かに話せるはずもない。

彼女と結ばれるその瞬間でさえ、私は見たこともないはずの海の世界に思いを馳せ、心ここにあらずだったのだから。



私を海の底から引き上げた、あの白魚のような手は誰だったのか。

海の底で確かに聞いた、あの美しい歌声は。


忘れられないのに、はっきりと思い出せない。


あの優しい歌声、風に揺れていた金色の髪、冷たい手、その長い足は…



「ほら、バラが綺麗ですよ」



ふっと意識が現実に戻り、私は彼女に微笑みかける。

むせ返るような薔薇の香りが、ぼんやりとした記憶を、砂のようにさらっていく。



いずれ、全て思い出せなくなってしまうのだろう。

あの声も、髪も、手も。



泡のようにパチンと、弾けて消えてしまうのだろう。

暗く深い、海の底へ。

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