8/15/2022, 10:35:49 AM
「夏の海より、冬の海の方が綺麗に見えるんだって」
街の光も届かない暗がりの中、彼女はこごえる両手をすりあわせるようにして暖をとっていた。
一言二言話すたびに白い吐息がもれていくので、こんなに寒いならもう少し着込んでおけばよかった、と心の中で思う。
「今日も冷えるからね、海が冷たくて透明になっていくんだよ。夜だからあんまり映えないけど、ここを出ていく前に見ておきたいなと思って」
ふふ、と笑う彼女はなんだか楽しそうだった。
砂浜に横たわっていた木の幹に二人で腰をかけながら、
夜空と同化しそうな紺色の海を眺めている。
最後に見る景色がこの夜の海でよかった。
まるで私と彼女、二人だけの秘密ができたみたいだから。
夜の海.
8/14/2022, 3:01:17 PM
自転車に乗って、目下の坂道を駆け降りていく。
まだ夜明け前の空に目をやると、
ぱちぱちと燃える明星が藍に光を差していた。
星の輝きに目を奪われながら、
私もあんな風に命を燃やせたなら、と思いを馳せる。
自分は大した存在ではないし何もできることはない。
それでもこの命は呼吸をしているから、綺麗に燃えているのだろうか。
前を向いてハンドルを強く握る。
風を切って下りていく中、ただ車輪をカラカラ鳴らしていた。
自転車に乗って.