空を飛べる友人がいる。
好物はたまごの入ったサンドイッチ。
なぜ飛べるのか、と昼食を食べている時に聞いた。(言うまでもないけど、友人はたまごの入ったサンドイッチを食べていた。いつもそれだ。)
「私が天使だから」
「ふうん…」
なんとなく辟易した。こともなげに言うもんだから。
「飛んでみる?」
「…ええ?」
下校しようと昇降口に来た時に誘われた
「ほら、空中散歩だよ」
「ものはいいようだね」
「口達者ってよく言われる」
友人と私はハグをするような体制で空へ上がっていった。ハグというか、必死に掴まっている風だけど。
「怖い!怖い!!」
「怖くない怖くない」
いやこわいって…
なれたら悪くなかったけどさ
放課後…アウトドアでも、まして外交的でもない僕は、放課後にともだちと遊ぶとか、そういうのはあまりしたことがないのだれけど。
だからといって、放課後が楽しくないわけじゃあないのだ
僕を縛るものから解放されたその自由な時間は、僕にまっしろな羽をくれる。
何をしよう?
本でもいい。勇敢な戦士になって異世界を冒険しよう
映画でもいい。美しい一葉一葉に心を揺さぶられよう
ゲームでもいい。たくさんの人とすれ違おう
思い切って散歩でもいい。坂を下ったら海がある
アイスを食べるのもいい。のら猫はじとっと見つめてくるだろう
何をしよう?
楽しいことはたくさんある。放課後なのだから、時間だってたくさんある。
何をしよう?
まっしろな羽を広げて、僕は放課後を飛んでいった。
なびくカーテン。絵に描かれるのは優雅に美しく揺蕩うように舞うカーテンだけれど、
おあいにく、
私の思い出じゃあ黒板を写すのを邪魔してきたり、
窓に濡れたみたいに張り付いた、そんな優雅とはいえないのがカーテンだ。
だけど、あ…いや、だから、
あの瞬間のぶふぁりと力強く波打った、あのカーテンを強く胸に刻めている。
斜陽は賢くそこに光をさして、風は得意げに吹いた。髪の毛は処世術に少しも逆らわずに視界に入り込む。
黒板は眠っている。窓枠にくり抜かれた明かり。
美しいとはまさにあの光景を指していて、自分は神の気まぐれでそれを見せてもらえたのだと分かった。
美しいを見た瞬間、自分は洗われて、とても純粋なものになれた気がした。
不恰好なカーテン。だけれどあの時は、ものすごく優雅だった。
空は孤独…、だろうか。
私は詳しくないけれど――本当に詳しくない、残念だけど――この地球にあるあの青い空を、他の星で見たことがない。
あったとしても、ずぅっと遠く…声の届かない所なんじゃないかな。
自分と同じでないものばかりあふれた世界は、うん、…きっと孤独だ。
あ、いや、でも私たちがいるのか。
ちっぽけでなんの頼りにもならないけど、それでも空には私たちがいる。植物や、他の生き物だっている。
もしかしたら、雲とは親友かもしれない。
それなら、空は孤独じゃない。
雨は悲しいんじゃなくて、雲の上のパーティーが楽しすぎて思わず降らしてしまうのかも。
雷はおこってるんじゃなくて、太陽とのお喋りが嬉しすぎてパチパチしてしまうのかも。
それなら安心だ…。空は孤独じゃない。空は泣いてない。空は…ずっと元気に笑ってる。
私の友達は…私と友達なの。
ああ、ごめんなさい。わかりにくかったわよね。
私は紙なの。そう、植物とその他の繊維を膠着させてつくった、字や絵をかいたりする、あの紙。
あの子は…私に自分の思いを吐き出す。きっと人間には言えないのね――内容も、気持ちの良いものばかりとは言えないし。
だから、人間ではない、だけれど友達の私にあの子は言う。思いを、考えを。
熱烈なそれは、時に苦しくなることもあるけれど。
…ええ、受け止めるわ。そう難しいことではないの。
あの子とはずぅっと昔から友達よ。助けてあげたいと思うの。
受け止めるわ――そう、消えるまで。私が燃やされてしまうまで。この命が燃え尽きるまで、ずっと。