好き、と同じくらいの密度の寂しい、が涼しい空気に練り込まれる、私はうっかり欠伸をしたのでジ・エンドしました、死を悼むのに最適な季節が短命なのは大変ロマンチックなことです、私はまるで、肺呼吸を思い出した、ような気持ちで、帰らなくちゃと踵を返す、深い色のスイーツくらいしか甘いものがないなんて！　私は口を閉ざします、寒さよりも涼しさが、私を殺すなんて誰も教えてくれなかった。

秋恋

チリンチリン、おめでとうございます！　あなたは至宝を手に入れました！　我々人類が焦がれてやまないものです、未だかつて手に入れられた人はいないのです、誰もが夢破れ涙に暮れ手を伸ばしたものなのです、と、わざとらしい歓声と共に授与される、要らないもの、
彼らはなんにもわかっちゃいない、
すみませんがそれは僕には要らないものです、たまたま僕が身軽に見えたんなら心外ですが、この両手でも持てない水晶の花束を贈る予定があるんです。

大事にしたい

このために生まれてきたのだ、と思える瞬間に出会い、それは勘違いだよ、と言われ、私は死ぬタイミングを逃し続ける、神様に愛されてた証拠を探して海に出た、ちゃぷんと水面に手を浸けると、指がふやけて広がっていく、今この海の何分の一かが私、それでも潮騒が攻撃するのでやっぱり私は不純物、海になれない私の更新期限が来る、お手軽な自殺宣言にももう飽きた、耳を澄まして、ちょっと黙って、私の残滓がなにか言ってる。

時間よ止まれ

本当に隠してくれるのは暗闇じゃなくて光だね。好きな人との会話不全、連絡先を知らない友だち、歯医者の予約、失っても気づかれない思い出、ぽいぽい生まれて宙に浮かぶけれど、眩しすぎてよく見えない、だから無いのとほとんど同じだ、母さん、身体の調子はどうですか。そっちは星が綺麗だろうね。東京は星空が地面にある、星が捕まらないんで代わりに命を明滅させることにしたらしい、僕はもう寝る、次の年末は家に帰るよ。

夜景

花を摘んでも残酷に見えないのは花も悪い、本当に摘まれたくないなら摘まれた瞬間に枯れるくらいはしてみせろっていうのは、あまりにも乱暴じゃないですか。ここがこんなにめちゃくちゃなのに、死んだら天国地獄と緻密に設計されてるって信じてる？　僕らが美しいのは君らが美しいと思うから、僕らが傲慢なのは君らが美しさを傲慢さと定義するから、だって綺麗なんだもん、というだけで、無邪気は邪気って分かるでしょ。ご安心ください、僕らと君らは似ています、愛されることは不幸って気づいてないところとか。

花畑