よる

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3/14/2024, 3:35:33 PM

「もう春が来るんだねぇ」
呑気に笑う君。

「そーだね」 
僕がそう返すと、
彼女はくるっと振り返った。

「だってさ、今日春のにおいがしたもん」

「花粉?」

「違うよ、空気だよ。くーきっ」
僕の一言が気に入らなかったのだろう。
彼女はわざと頬をぷくーっと膨らませてみせる。


彼女は本気なんだろうけど。
ころころ変わる表情は、見てる分には面白くて。
思わず僕は吹き出してしまう。


「あ、」

今度は何だろう。

「桜につぼみができてるー!」

確かに今日はいつもより暖かかったかもしれない。でも、それだけでそんなに喜べるなんて。
楽しそうにするなんて。


ふざけているのではないかと、
勘違いするくらいのハイテンション。


でも、彼女を見て驚いた。

今までに無いくらいの、
優しい顔をしていた。

「かわいーねっ」

目を細めて、人差し指でそれに触れれば
桜も嬉しそうにサワサワ揺れた。


「やっぱり春が来るんだねぇ」


春みたいに暖かい、柔らかい顔。
そんな顔も、するんだ。
目の前のことに敏感な、
ただのオーバーリアクション人間かと思ってた。


「おい。誰がオーバーリアクション人間だよっ」


彼女の声ではたと気付く。

あ、口に出てたみたい。

悪気は無かった。たぶん。


「ごめんて、」


「絶対に許しませんっ」


「何でもしてあげるからさ」


「じゃあ、いちごミルク奢って」


「ったく、仕方ないなぁ」


「やったぁー」






こんな何気ない会話、冗談。

もう楽しくて仕方がない。



なんて彼女に言ってしまえば、
調子に乗ってしまいそうだから
絶対に言わないけれど。




でも、最近思うんだ。

明日も、明後日も。

無邪気な君と笑っていられたらいいな、なんて。



体温と同じくらいのそよ風が頬を撫でる。

もうすぐ、春が来る。



#7
安らかな瞳

3/13/2024, 4:27:08 PM

たぶん、ここは特等席だ。
私が一番貴方に近い。

いつも笑顔で完璧な貴方。
でも、その裏側の努力とか涙。
たぶん私しか知らない。


何でそんなに無理して頑張ってるのかも、  
きっと私しか知らない。

いつも温かい体温で私を包み込んで、
そっと呟くんだ。
 

「あの子の隣に立ちたい」


それを聞くたび、 
私の耳と長い尻尾はピクリと動く。

胸がきゅっと締め付けられる。
苦しくて、息がうまくできなくなる。
のに、貴方の撫で方が優しいから。
思わず喉がごろごろと鳴ってしまう。


いつか例の「あの子」も、
貴方の弱くて脆い部分を
知ることになるんだろうな。


あー、どうしてこんなに近いのに。
私は言葉を発することが出来ないのでしょう。
貴方は違う方向を向いているのでしょう。 

どうして人に生まれられなかったんだろう。


そしたら「あの子」ポジションに
なれたかもしれないのに。




でもね。
貴方の近くで、
ずっと見守ることが出来てるのは
私、とっても幸せなの。

でも、それじゃ満足いかないの。
どうしても貴方が言う
「あの子」
が羨ましいの。
貴方に思われてる
「あの子」
が、どうしても。


だって思われる種類が違うじゃない?
私は「家族」。
「あの子」は『トクベツ』。



わがままでごめんなさい。

今はこれで我慢するからさ。


もちろん今の、貴方の隣も好きだけど。

来世では、違う形で隣に立ちたい。


ずーっと隣にいたいんだ。





首もとの鈴が儚くちりん、と鳴る。

きっと貴方には聞こえないでしょう。

この音はどこかへ飛んでしまえ。


#6
ずっと隣で










3/12/2024, 3:10:12 PM

思い出の瞬間って。
その時に聴いてた曲に、全部が詰め込まれてる。

風。

見てた景色。

あの空気感。

季節のにおい。

だから久しぶりに聴くと、
記憶が鮮明に流れ込んでくるんだろうな。


なんだろう、なんか宝箱みたいだ。
人生の中の大事な記憶の欠片を入れておく場所。
それが、音楽なんだ。

あー、貴方に好きな曲聞いておけばよかったな。

なんか、その人の人生の一部に入り込めるような気がするから。


もっと知りたかったな。

今更、叶うわけないけれど。



#5
もっと知りたい


3/9/2024, 3:11:52 PM

君への気持ちは、


ホワイトリリーの香りに重ねて。


幸せだった日常に


そっと終止符を打った。



#4
過ぎ去った日々

3/7/2024, 12:08:10 PM

静寂に包まれた夜。

暗闇のなかに見えるのは、

窓から差す一筋の光。



届きそうだなって思ってた。

でも、

やっぱり満月には届かない。


#3
月夜







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