《心の羅針盤》
書けたら書く!
2025.8.7《心の羅針盤》
《またね》
書けたら書く
2025.8.6《またね》
《泡になりたい》
「……そういえばリトルマーメイドって、最後は泡になって終わるんだよな」
「……はい?」
虫の声がうるさい夏の暑い夜。俺(齋藤春輝)がリビングで天気予報を見ながら久々にアイスを食べていると、ふと双子の弟の蒼戒が机に向かいながら口を開いた。
「いや、なんでもない」
「いやいやいやいや! なんでもなくはないでしょ!! 何突然リトルマーメイドって!!」
「いや本当になんでもないんだが……なんとなくふと思い出して」
「確かにリトルマーメイドは主人公が泡になったところで終わるけど……」
「それならあの人も、泡になったみたいに死んだのかな、と」
「なるほどそう言うこと……」
俺たち双子には、姉がいた。随分前に、亡くなったけれど。死因は、溺死だった。
「悪い、今話すことじゃなかった」
「いや、いいよ。どーせまただったら自分も泡になりたいー、とか思ってたんだろ?」
「……よくわかったな」
「そりゃわかるさ。でも、絶対泡になんてさせないから」
俺は蒼戒に向かってはっきり言う。蒼戒を泡になんか、させない。死なせやしない。
「そりゃ参ったな。泡になるのも悪くないと思ってたんだが」
「お前なー! さてはお前疲れてるな?! 今日はもう寝ろ!!」
蒼戒がこう言う話をする時は決まって体調が悪い時か疲れている時と相場は決まってるし。
「いや別に疲れてないと思うんだが……」
「いやいやいや、最近暑いしそもそもお前最近ろくに寝てねーだろうが!」
「……そ、そんなことないが……」
口ではそう言っているものの、バレてたのか……? とその顔が言っている。
「嘘つけ。というか夏休みくらいゆっくりしろよ」
「無理だな。休みが明けたら選挙があるし、そもそも明日も稽古があるし」
「だったら尚更早く寝ろ! そんなんじゃ夏バテまっしぐらだ!」
「わかったわかった。お前がうるさいからもう寝るか……」
「どうとでも言いやがれ。でも断言する。お前いつか絶対倒れる」
「はいはい」
「はいはいじゃねーよ! あ、そうだ、たまにはアイスでも食べる?」
「いらない」
「えー、美味しいのにー」
とまあこんな感じで夜は更けていく。言い合いしてたら結局寝る時間はいつもと同じになっちゃったけどなー。
(おわり)
2025.8.5(8.6)《泡になりたい》
《ただいま、夏》
書けたら書く!
2025.8.4《ただいま、夏》
《ぬるい炭酸と無口な君》
「どしたの蒼戒ー、見るからに不機嫌そうな顔してー」
7月末、夏休みが始まる少し前のある日のお昼休み。私(熊山明里)は教室で仏頂面で本を読んでいる幼馴染でクラスメイトで、私の彼氏の齋藤蒼戒に声をかける。
「ああ、明里か。そんな顔してない」
読書を中断されて、眉間に皺を寄せながら蒼戒が顔を上げる。
「嘘つけ。あんた元々仏頂面だけどそれに磨きがかかってたわよ」
「うるさい。元々こんな顔だ」
「はいはい。ところでサイダーいらない? さっき自販機でオレンジジュース買ったんだけどその時クジでサイダー当たっちゃって」
私はトンッ、と蒼戒の机にサイダーのペットボトルを置いて言う。
「いらん。夏実か春輝にあげればいいんじゃないか」
「それができないからあんたに回ってきたんでしょうが。2人ともどっか行っちゃったみたいで見つかんなくてー。あ、ちなみに2人を探して歩き回ってたからちょっとぬるくなっちゃったかも」
「自分で飲んだらどうだ?」
「んー、今サイダーって気分じゃないのよねー。大丈夫、毒なんか入れてないわよ」
「そこは心配してない」
「ならいいじゃない。もらってよ」
「いやいらん。と言うか読書の邪魔だ」
「ひどーい。それが彼女に対する物言いなわけ?」
「何か問題でも?」
「ないですよーだ。ちなみに何読んでるの?」
私が尋ねると、蒼戒はため息をつきながら表紙を見せる。
「『銀河鉄道の夜』、かー。あれ、あんたついこの前もそれ読んでなかった?」
「うるさい。他に読むものがなかっただけだ」
「そーいえばあんたって結構な読書家なのよねー。あれ読んだ? ホームズ」
「ホームズ? かなり前に一通り読んだな」
「じゃあルパン」
「それも読んだ」
「えー、じゃあクリスティ」
「なぜ全部外国文学なんだ。ちなみにクリスティも読んだ」
「うーん、じゃあ漱石は?」
「読んだ。芥川や太宰も読んだぞ」
「あんたそれ読書家って言うより濫読家って言った方が近いんじゃないの?」
「……そうかもしれないな。宮沢賢治以外特にこだわりないし」
「へー、宮沢賢治好きなんだー。いいこと聞いちゃったー」
「逆に知らなかったのか? と言うかそれで何するつもりだ?」
「しーらない。じゃ、サイダー飲んでねー」
私はそう言ってひらりと手を振り、教室を出る。
ホントはサイトウこと双子の兄の春輝と喧嘩したらしい蒼戒を元気付けようと思ったんだけど余計なお世話だったかしらね。でも銀河鉄道の夜が好きなら今度2人でプラネタリウムにでも行こうかしら、なんてね。
(終わり)
2025.8.3《ぬるい炭酸と無口な君》