《あの日の景色》
力尽きた……
2025.7.8《あの日の景色》
《願い事》
「願い事、ねぇ……」
7月7日、七夕。私、熊山明里は学校の昇降口に置かれた竹の前でひとりごちる。
「そう簡単に願い事、つっても思いつかねーんだよなー」
「そうですよねぇ」
「とりあえず早く書いて帰りたい……」
「ちょっと〜! 書かないと帰さないよー!」
と言っても私のそばにはいつものメンバー……なつ、紅野くん、サイトウ、そして蒼戒がいる。なつの提案で、みんなで昇降口に置かれた竹に願い事を書いた短冊(ご自由に書いてくださいと置かれている)を飾ることになったのだ。
「そーゆーなつはなんて書いたのさ?」
「あたし? あたしはねー、夏を思いっきりエンジョイしたい!」
「自由でいいわねー」
「つーかこれさぁ、どーせ来月の七夕祭りでも書くんだから書く意味なくね?」
私たちが住むあたりはひな祭りや七夕などは旧暦に祝う風習があるので本来なら七夕は来月の8月7日。その日は並木町真夏の大イベントのひとつ、七夕祭りが行われる。そこで並木の桜に竹が立てかけられ、願い事を書いた短冊を飾れるようになっているのだ。
「こーゆーのは気持ちとノリだもん! さ、みんなも早く書いて飾ろー!」
「はいはい。書けばいーんでしょ書けば」
というわけで私は頭によぎったことをペンでサラサラと短冊に書く。
「はい、書けたわよ」
「俺も書けたぜー!」
「僕もです」
「右に同じく」
一応全員書けたようなので、みんなで短冊を竹に結びつける。
それぞれの願い事は、こんな感じ。
私→海行きたい
なつ→夏を思いっきりエンジョイしたい!
紅野くん→健康第一
サイトウ→5人で花火を見たい!!
蒼戒→無病息災、生徒会で使える人材と睡眠時間確保
「なーんか毎度のことだけど蒼戒だけめちゃくちゃ現実的よね……」
「だよなー。オメーもーちょっと夢持てよ」
「これも毎年言ってる気がするが、そもそも短冊には叶う願いを書くものだから……ん、ちょっと待てこれ叶うのか……?」
「あーごめん俺が悪かった……」
「何か僕でできることがあればいつでも言ってくださいね……」
「ありがとう紅野……。さて、帰るか」
「そうねー。天の川見えるかしらー?」
「さすがにまだ早いでしょー」
というわけで私たちは連れ立って昇降口を出る。みんなの願いが叶うかどうかは、今ごろ年に一度の面会を果たしているであろう、織姫と彦星しか知らない。
(おわり)
2025.7.7《願い事》
《空恋》
書けたら書く!
2025.7.6《空恋》
《波音に耳を澄ませて》
書けたら書く!
2025.7.5《波音に耳を澄ませて》
《遠くへ行きたい》
「うーん、どっか行きたい! 蒼戒! 旅行行こう!」
「は?」
8月某日、夏休み真っ只中。いつものように俺、齋藤蒼戒がリビングで竹刀の手入れをしていると、野球のグローブの手入れをしていた双子の兄の春輝が突然素っ頓狂なことを言い出したので、俺はつい間抜けな声を上げる。
「だーってせっかくの夏休みじゃん! どっか行きたい! 旅行行きたい!」
「……どこへ?」
春輝があまりにもキラキラした瞳で言うので、さすがの俺も現実的に不可能だとは言えない。
「んー、どっか遠いとこ! 遠くへ行きたい!」
「遠く、ねぇ……」
「何々お前も行く気あるの?!」
「な訳あるか。俺はどちらかと言うと外は暑いし人多いし家にいたい」
と言うか連日猛暑日を超えているというのに外に出たら熱中症になりに行くようなものだと思う。
「だよなー……。やっぱ無理かぁ……」
「そんなに行きたいのなら1人で行ったらどうだ?」
「それはやだー! 蒼戒と一緒に行きたい!」
「ガキか。というかそもそも現実的に不可能だ」
「だよなー。そーいや商店街で福引きやってたよなー。あれの一等、沖縄旅行ペアチケットだったよなー」
「そういえばつい数日前もそんな話したな……。あれ当てる気なのか?」
「うん!」
「…………頑張れ」
曇りなきまなこで言われ、俺はとりあえず応援の言葉を返す。
この話題はこれで一旦打ち切りになったが、数日後春輝ではなく夏実が沖縄旅行を引き当て、結局いつもの5人で旅行するハメになったのだった。
(おわり)
※一応かなり前の《未来への船》の続きになってます!
2025.7.3《遠くへ行きたい》