《手紙を開くと》
※一応かなり前の《旅の途中》の続きになってます
「あれ、手紙」
ある冬の日の夕方、俺、齋藤春輝が郵便物をチェックしていると、珍しく俺と双子の弟の蒼戒宛の手紙が紛れていた。
「手紙? 誰からだ?」
蒼戒が夕飯の味噌汁に味噌を入れながら尋ねる。
「んー……っと、あ、これセオからじゃん!」
瀬音立太。俺たちの幼馴染で、今は北海道に住んでいる。ちなみにものすごい方向音痴。
「セオ? この前絵葉書が送られてきただろう」
「うん。確か縄文杉と姫路城と万里の長城」(《旅の途中》参照)
「で、今回は絵葉書じゃなくて手紙なのか?」
「ああ。えーっとー」
手紙を開くと、「もうすぐ遊びに行く! 今週中には着くはず!!」と書かれていた。
「今週中……今日金曜だから明日あたり来るのか……?」
蒼戒がカレンダーを見て怪訝そうに言う。
「まあそういうことだよなー。セオがまっすぐここに来れれば」
「無理だろ」
「俺もそう思う。だって遊びに来るって最初に言ったの2週間前じゃん!」
「そして屋久島に兵庫に中国に……。今はどこにいるんだか……」
「この手紙は……オーストラリアからだな」
「国際便か。とすると届くのに時間がかかるから本来ならもう来ててもおかしくないな」
「確かに。てか何をどうしたら日本から中国に、中国からオーストラリアに行くんだよ。海渡ってるじゃねーか」
「それを言ったら北海道から本州間も海を超えるが?」
「言われてみれば。てかなんでこんなに迷うんだろ……」
「さあ……。まあいい。味噌汁出来たし夕飯にするぞ」
「はいよー」
この話はここで打ち切りになったが、その三日後、今度は自由の女神の絵葉書が届いて俺たちは仰天する羽目になる。
(終わり)
2025.5.5《手紙を開いて》
《青い青い》
あとで書くつもり!
2025.5.3《青い青い》
《sweet memories》
多分後で書く!
2025.5.2 《sweet memories》
《好きになれない、嫌いになれない》
※季節外れです
「雪、か……」
ある冬の日の午後6時過ぎ。俺、齋藤蒼戒は夕飯の鍋を煮ながらまだカーテンを閉めていない窓の外を見て呟く。今日は一日寒かったし、とうとう雪まで降ってきたようだ。そういえば今朝の天気予報でも雪が降るとかなんとか言っていたような、いないような。
ひらりはらはら、はらひらり。
雪が舞うように、踊るように降っている。その景色は、綺麗だと思うけれど。
「……やっぱり、好きにはなれない」
どうしても好きになれない。その冷たさが、儚さが、見えない傷を抉ってしまうような気がするから。あの日のことを、思い出してしまうから。
「……でも、嫌いにもなれないんだよな……」
あの人の名前を、気高さを、儚さを、連想させられるから。
ぐつぐつ、ぐつぐつ。
鍋が音を立てて煮えている。もうすぐ完成だ。
『お、蒼戒ー。今日の夕飯はお鍋だよー。もうちょっとで煮えるから机片付けておいて』
『あとは仕上げにお豆腐入れてー、味見味見〜。お、春輝も食べる? ちょっとだけだぞー? どう? おいしい?』
『そうかおいしいかー! じゃあ完成! 蒼戒ー、お鍋そっち持ってくよー!』
ふとそんな声が聞こえた気がした。もう12、3年も前になる、平和な時間の記憶。
「まったく俺も重症だな……」
もういない人の、とっくに忘れていたはずの声を、記憶を、思い出すなんて。
「もういい加減、忘れたと思ってたのに……」
俺は額に手を当てて自嘲気味に呟く。
俺たち双子には、姉がいた。俺たちの七つ年上で、名を齋藤雪音と言った。俺たちが小学校に上がる前の12月、百合ヶ丘の公園で亡くなった。
だからこの平和な時間が戻ってくることは、もうないのに。
『ほら蒼戒、何ボーッとしてるの! お姉ちゃんが全部食べちゃうぞー』
「……え?」
また声が聞こえて、俺は目を瞬く。
もしかして、夢でも見ているのだろうか。それとも、姉さんがいない世界が夢で、こっちが本当の世界?
『ほら、ボーッとしてないで食べな! 残ったら明日の朝ごはんになるからね!』
ああ、よかった。《あっち》が夢だったのか。だって姉さんは、ここにいる。
「……い! ……おい! 蒼戒っ!!」
突然肩を強く揺すられて、俺はハッとして目を瞬く。
「……春、輝……?」
目の前にいるのは姉さんではなく、制服姿のままの双子の兄、春輝。
「はぁああー……。ったくお前はよー、ただいまつっても反応ねーし鍋めちゃくちゃぐつぐつ言ってるし吹きこぼれかけてるのにまったく動かねーし心配したぞ馬鹿野郎!」
春輝は盛大にため息をついて言う。
「……悪い」
「そう思うなら心配かけんな!」
ぐうの音も出ない。
「てかお前がここまでボーッとするなんて珍しいじゃん。大丈夫?」
それよりも、今目の前に春輝がいるのは夢かどうかが気になる。これは夢? それともさっきの姉さんが鍋を作っている世界が夢?
「………………」
いや……、この世界が現実だ。わかってる。俺が夕飯の鍋を作ってた。夕飯を作ってたのは、姉さんじゃない。
「……蒼戒?」
「……ん、ああ悪い、聞いてなかった」
「ったくお前は言ってるそばから! そんなにボーッとして大丈夫かつってんの!」
「……問題ない」
さあ、いつまでも夢心地じゃいられない。微妙な胸の痛みは無視して、鍋を完成させなければ。
「ならいいけどよ。ん、今日の夕飯鍋? 味見していい?」
「ああ。味付けまだ途中だが……」
「そうか? 俺にはいい感じに見えるけど……」
春輝はそう言って小皿に少し汁を入れて味見をする。
「ん、おまっ、これすごいしょっぱい! 塩足そうとすんな!」
「え? さっき味見した時はまだ薄いと思ったんだが……」
「いやいやいやいや、めちゃくちゃしょっぱいから! お前も一回味見してみろ!」
春輝がそう言って小皿を差し出すので味見してみるが。
「? 薄くないか?」
「いやいやいやいや! おっ前、さては熱でもあるな?!」
春輝はそう言ってパチンと俺の額に手を当てる。
「やっぱり! お前熱い! 絶対熱ある!」
春輝は俺から手を離し、慌てて体温計を探し始める。
「んな馬鹿な。お前の手が冷え切ってるだけじゃないか?」
でも春輝の手は冷たくて気持ちよかった。もうちょっと掴んでいたかったと思うくらいには。
「なわけあるか! 俺今帰ってきたばっかだけど手袋してたからそこまで冷え切ってねーよ! ほら、体温計!」
春輝はそう言って体温計を投げて寄越す。
「ん…………、あ、本当だ」
「八度二分……結構な熱あるじゃねーか!」
春輝が横から体温計を覗き込んで言う。
「もしかしなくてもさっきから胸が痛いのはこれのせいか……」
あと変な幻覚というか白昼夢を見たのも。
「おっま……! それ完全にアウト! 早く寝ろ!!」
「でも夕飯と生徒会と明日提出の課題が……」
「でもじゃなくて全部休み! まったくお前は体調不良を無視するな!」
「…………悪い」
「そう思うなら今すぐ寝ろ! 夕飯はなんとでもなるから!」
「いやでも…………、あっ……」
「おっと」
俺はそのまま夕飯の支度を続行しようとしたところ、ふらりとよろけてしまうが、ちょうど隣にいる春輝が支えてくれた。
「……悪い」
俺はそう言って改めて夕飯の支度にかかる。あー、でもなんかまたふらふらするような……。
「悪い、じゃねーよ! 今日はもう休め!」
春輝はそう言って俺を抱え上げる。
「え、あ、何するんだ春輝!」
「文句はなしな」
結局俺は強制的に春輝に布団に送り込まれる。まだいけると思うんだけど抵抗するだけ無駄な気もするな……。
「……あの、春輝……、ずっとここにいなくてもいいんだが……?」
俺は布団の中から俺の布団の前に居座った春輝に言う。
「ダーメ! どーせ目を離したら何かしらやり出すだろ?」
「………………」
図星である。明日までにやらなければならないことがあるし。
「お前はすぐ無茶するんだから……、たまにはゆっくり休め。ただでさえお前この時期よく体調崩すのに……」
「…………悪い」
「だーからそーゆーのもういーから。早く寝て、早く元気になれ。じゃないとなんか……調子狂う」
「……ああ」
俺はそれが春輝なりの労りの言葉だとわかっているから、短く答えて目を閉じる。
でもなぜか、もの寂しさを感じて眠れない。それになんか本格的に体がだるくなってきたような気がするし、頭痛もしてきた。これはまずいな……。
「……心配すんな。俺がいてやっから。お前はひとりじゃないんだから」
春輝の言葉に、はっと息を呑む。春輝はいつも、俺のほしい言葉をくれる。それがいつも、ありがたい。
「……ありがとう、春輝」
「わかったからもう寝てしまえ。ぐっすり眠ればすぐよくなるさ」
「……ああ、そうする……」
春輝の言う通り、ゆっくり休めばこんな風邪、すぐ治るだろう。
そんなことを思いながら、隣に春輝がいてくれるという安心感を感じで俺はゆっくりと眠りについた。
(終わり)
2025.4.29 《好きになれない、嫌いになれない》
《夜が明けた。》
時間ないからあとで!
2025.4.28《夜が明けた。》