「ただいまー!」
「お帰りなさい」
「おやつは?」
「テーブルにドーナツが用意してあります、
その前に手を洗って下さい」
「はーい」
「宿題はありますか」
「あるよ、あとで見せるね」
「スキャンしておくので先に出して下さい」
これは子どもたちが下校後、私が仕事から帰るまでの見守りロボと子どもの会話だ。大きさは30センチほどのコロンとしたボディで動きこそぎこちないが、搭載されたAIには私自身の思考や知識、子どもの発育に合わせた心理や教育全般などをできる限り深層学習させてある。
日々更新が必要なデータは逐一追加していて、子どもたちの宿題対応、習い事や友達との約束管理もできる。体調不良時には症状をまとめて出先の私やかかりつけ医に連絡が入るし、調べものや簡単な悩み相談にも応えてくれる。便利だし、安心だ。
仕事がない時にはもちろん私が子どもたちと一緒に過ごす。どんなに便利でも本物の親の愛情がこもった世話とは比べものにはならない。
張り切って手の込んだおやつ作りに苦闘していると、背後でヒソヒソ囁きあっている。
「ちょっと頼りないけど、たまにはポンコツなお母さんも悪くないね」
「たまには」
#352
大好きだよ
大好きだよ
大好きだよ
この大好きな気持ちが
腹ペコのきみの
美味しいおやつになったり
震えるきみの
ブランケットになったり
暗闇を歩くきみの
足もとを照らす光になったり
きみがよろこぶ何かに
なったらいいのにな
「大好きな君に」
#351
父を亡くし母と二人暮らしをしていたころ
一緒に行った百貨店で 雛人形を買うのだと母は言った
もう私も成人してるのに今さら…?と思いつつも たくさん並ぶ雛人形を見ては いいお顔ね、着物の柄が素敵ね、などと楽しそうな様子に付いて歩いた
花びらの舞う屏風と小さな貝合わせの道具がセットになった木目込み人形が気に入った母は「これに決まり!」と言って買い求めた
その数年後に母も他界して 共に雛人形を眺めたのはほんの数回だったけれど
花の季節が巡ってくる度にあの時の母を思い出す
なぜ急に雛人形?と、聞かなかった問いに答えはない でも一緒に過ごす日々を大切に愛おしんでくれていたのだと感じる
季節を、母を思い出させてくれる優しいお顔の雛人形に 今年もありがとう
「ひなまつり」
#350
昨日より今日が
今日より明日が
ほんの少しでも良い日でありますように
「たった1つの希望」
#349
あり得ないってわかってる
でも ずっとここにいてほしい
100年も 1000年先だって
きみのいない世界はいやだよ
「欲望」
#348