「時を告げる」
薄暗い部屋の中、古びた時計が静かに時を刻んでいた。その音は、まるで過去の記憶を呼び覚ますかのように響く。主人公のアキラは、祖父から受け継いだその時計を見つめながら、思い出にふけっていた。祖父はいつも言っていた。「この時計は、ただの道具ではない。時を告げる者だ」と。
アキラは、時計の針が動くたびに、祖父の言葉を思い出す。彼は子供の頃、祖父と一緒に時計の修理をしたり、その歴史を語り合ったりした。祖父の温かい手のひらが、アキラの心に深く刻まれている。しかし、時が経つにつれ、祖父は旅立ち、アキラは一人残された。
ある晩、時計の針が12時を指した瞬間、奇妙な光が部屋を包んだ。アキラは驚き、目を凝らした。その光の中から、祖父の姿が現れた。「アキラ、時は流れ、思い出は消えない。君の心の中に、私がいる限り、時間は止まらない」と祖父は微笑んだ。
アキラは涙を流しながら、祖父の言葉を胸に刻んだ。時計はただの道具ではなく、愛する人との絆を結ぶものだと気づいた。彼は時計を大切にし、祖父の教えを次の世代へと伝えていくことを決意した。
時を告げるその時計は、アキラにとって永遠の宝物となった。彼は心の中で、祖父と共に生きることを誓った。
立花馨
「欲望」
僕には物欲があまりない…、それは人に対しても。
身近ではいつも同級生が『彼女ほしい〜』と騒いでいるが、僕は全くそういうのに興味がなかった。
「恋愛話とかいつもみんなでしてるけど、よく飽きないね」
「圭も思ったことあるだろ?」
「ないよ。そういうの興味ないし…」
「恋愛は興味なくても、なんか他に欲とかないの?……例えば、したい事とかなりたい物とかさ」
「んー……あんまり考えたことない…」
移動し机に突っ伏しては一つ考えている事があった。
僕はよく周りからも〝無欲〟と言われるが、自分でもそう思う。
十人十色とは云うが、欲なんてあってもなくても変わらない。欲なんて無くてもさして問題はない。パッと見で欲があるかないかなんて、人は判別できないから。
立花馨
「列車に乗って」
列車に乗って旅に出る。どこへ行こうか。
行き先を決めずに出発するのも面白いかもしれない。
高い所は苦手で飛行機は乗れないが、
列車や船なら日本全国どこでも行ける。
いつか話していた(死別した)元カレの地元にでも
行ってみようか。
僕らは同性同士で結婚は出来なかったけれど、
お互いを想い合っていたのは事実だし、
現に両家公認でもあった。
「向こうの親御さんに話したら快く受けてくれるだろうか…」
そんなことをぼんやりと考えながら荷造りを進めていた。
立花馨
「遠くの街へ」
「なに浮かない顔してんの? 心ここに在らずって感じじゃん。何か悩みでもあるなら聞くよ?」
教室の窓際でボーッとしていると同級生の翔(カケル)が話し掛けてきた。聞くに魂が抜けた様に見えたらしい。
「悩みって程じゃないけど……」
「ないけど?」
「来週…引っ越すんだ、親の仕事の都合で九州に。…まぁ僕ももう高校生だし、ついて行くかどうかは自由に決めていいって言われてるけど、どうしたら良いか分かんなくて…」
憂鬱に溜め息をついていたら、唐突に頭を撫でられた。
「どっちを選ぶにしても、後悔しない方にすれば良いんじゃない? 俺としては仲良いヤツが行っちゃったら、ちょっと淋しいけど」
「こっちに居る方が、楽っちゃ楽なんだよね。翔はさ、付き合い長いし僕の事をわかってるから、僕を女の子扱いしないじゃない」
「まぁ、小学校からの仲だしな。話してて女子を相手にしてるって感じしないのが率直な感想かな。あと単純に気が合う」
家族にはカミングアウトしてないし、言い訳するのも面倒だから女子用の制服を着ているが、身近なところで話しているのは翔だけだった。
「まぁ…もう少し考えてみるよ。答えが出たらまた報告するね」
「了解、気長に待ってるよ」
そんな話をしながら休憩時間を終えた。
立花馨
「現実逃避」
逃げたい時は誰にだってあると思う。
僕も一時期、めちゃくちゃ現実逃避してた。
それでも君が『どれだけ悩んでいても、明けない夜はない。後になって向き合う勇気が持てれば、一時の現実逃避も悪じゃない』と言ってくれたお陰で、僕の心も少し軽くなった。
学生時代だけの付き合いだけど、
君はいつも僕の隣りに居た。
君は僕にとっての太陽だったよ、ありがとう。
立花馨