「遠くの街へ」
「なに浮かない顔してんの? 心ここに在らずって感じじゃん。何か悩みでもあるなら聞くよ?」
教室の窓際でボーッとしていると同級生の翔(カケル)が話し掛けてきた。聞くに魂が抜けた様に見えたらしい。
「悩みって程じゃないけど……」
「ないけど?」
「来週…引っ越すんだ、親の仕事の都合で九州に。…まぁ僕ももう高校生だし、ついて行くかどうかは自由に決めていいって言われてるけど、どうしたら良いか分かんなくて…」
憂鬱に溜め息をついていたら、唐突に頭を撫でられた。
「どっちを選ぶにしても、後悔しない方にすれば良いんじゃない? 俺としては仲良いヤツが行っちゃったら、ちょっと淋しいけど」
「こっちに居る方が、楽っちゃ楽なんだよね。翔はさ、付き合い長いし僕の事をわかってるから、僕を女の子扱いしないじゃない」
「まぁ、小学校からの仲だしな。話してて女子を相手にしてるって感じしないのが率直な感想かな。あと単純に気が合う」
家族にはカミングアウトしてないし、言い訳するのも面倒だから女子用の制服を着ているが、身近なところで話しているのは翔だけだった。
「まぁ…もう少し考えてみるよ。答えが出たらまた報告するね」
「了解、気長に待ってるよ」
そんな話をしながら休憩時間を終えた。
立花馨
2/29/2024, 9:16:01 AM