『どうしてこの世界は』
暑い。
じわじわと体温を認識していく。
首を振っている扇風機の緩い風を、なぜか掴めるような気になって手を伸ばしたりする。
暑くて目が覚めた私を、空を握りしめた掌の熱が揶揄っている。
今日もまた一日が始まる。
『そっと包み込んで』
パッとしない中身をそっと包んでポケットに押し込む。
真っ直ぐ伝わる表面だけの自分だけが見えるように。
洗濯するためにポケットから取り出した本当の自分はまるで別人のように感じた。
『夢を描け』
何も見えない。何も見えていない。
私が今彷徨っているのは真っ暗な闇でも真っ白な空間でもなく、現実世界。
何よりもこれが苦しい。
零れ落ちそうなほど抱えていたはずの憧れや将来への期待、イメージ、夢、すべてどこかに置いてきてしまった。
内側から溢れそうになる情熱が私の心臓を突き動かして伝わってくる感覚を覚えている。
でもそれは、褪せることを待つだけの一つの感情の記録に過ぎない。記憶の中の感覚では、私の外側の環境も内側の環境も、再現しきることができない。
片鱗では意味がない。
あの感覚を取り戻したくて踠いている。
『届かない……』
伝えられなかった後悔を晴らす夢をよく見る。
目が覚めて、また後悔する。
同じ夢を見てくれていたらという都合の良すぎる願望を、いつになっても捨てきれない。
『夜が明けた。』
日中暑いぐらいに太陽が照り始めた最近は、日の出が早い。
朝が来るたびに、生きているという実感が薄れていくような気がする。忘れてはいけない感覚を、逆撫でて思い出させるように掴みどころのない思考を追いかけたりしてみる。
小さい頃、まだ人が眠っている時間に目覚めると無性にワクワクした。そしてだんだんと、薄暗くて音のない世界にたった一人生きているような感覚を意識から離れた場所で覚えた。
夢から覚めて頭がまだぼんやりとしている間は、無意識に見ていた夢のことを考えている。ベッドから起き上がる頃にはそのほとんどを忘れて、現実を見ている。
雨降りの日なら、雨が降ってるなとしか考えない。
朝はそれぐらいがちょうどいい。