「お揃いの服が着たい」ということでセーターを買った。
白と黒の横縞に、有名なキャラクターが載ったセーター。どちらも普段全くと言っていいほどに着ないデザインだった。
あれから3年の月日が経ち、衣類整理の際に再び手にした。一度着て、それきり箪笥の奥に仕舞い込んでいたのだった。
何となしに着て鏡を見る。……やっぱり似合わない。
絶妙な太さの横縞は着太りして見える上、ピッタリサイズのセーターはピッタリな故にシルエットがイマイチだ。特にでかでかと印刷されたキャラクターが気に食わないほど合っていなかった。
すぐに脱いで不要と書かれたゴミ袋に詰め込んだ。
あの一度きりの時に見せた君の笑顔は、充足の微笑みだったのか、不格好さを見下す嘲笑だったのか。もう覚えていない。
大抵のことはすぐにわかる。事態を把握し、自身に合った解決策を合理的に導けば良いだけだ。
全てを忘れ、全てを手放す。簡単なことだ。何もかも手放して、特別製のネクタイだって用意した。
頭では充分わかっているんだ。
嗚呼、わからない。
無意識に言い訳をして、他人に愛想を振り撒いて、自分へのプレゼントを棚の奥へと隠してしまう、この感情の対処法が。
宝物は全てゴミに出した。今頃は溶鉱炉に投げ込まれているか、埋め立てられていることだろう。
大切に保管していたつもりだったが、もう必要はない。廃棄すべきだ。
友人だった者、恋人だった者、貰った物、共に買った物。粉々になった硝子は、酷く痛いんだ。
なのに貴女のことは捨てられずにいる。
唯一救ってくれた者、貴女の物。どれだけ傷付きどれだけ液体が溢れ出ようが手放せない。
煌めきが褪せてくれないんだ。
部屋中の明かりを消す。空の浴槽に身を沈め、キャンドルに火を灯す。ぼんやりとしたオレンジが静かに揺らめきながら、無機質の白を染めてゆく。
噛み煙草を喫む。
心拍さえもきこえない無音の丑三つ時、心地好い夜に深く深く呑み込まれてゆくのを感じながら、すっと息を吐く。まるで魂が天に昇ってゆくかの如く、白煙が景色を鈍く濁した。
冬になったら、そうだなあ。人の波が落ち着いた頃にでも旅行に行きたい。ひっそりとした、自然の多いところ。海や湖の見える部屋が好ましい。
そもそも秋口には何処かへ行こうと画策していたのだ。それこそオーシャンビューやらオーシャンレイクと銘打つ宿を探していくつか候補を見繕っていた。結局のところ、体調不良によって機を逃してしまったのだが。
特に何をするわけでもなく、ただ水面を見つめるだけの数時間を過ごすのが好きだ。
今年の海開きが始まる前に行って眺めた無人の海は素晴らしかった。深夜から日の出にかけて映る色の移り変わりの何と美しかったことか。
あの時期でさえそれなりに冷えたから、冬に行くとするなら相当の厚着をしなければならないな。正月明けはまだ混雑しているだろうか。また宿を探さなければ。
空に舞う雪を眺めるだけの旅も良さそうだ。しかしその場合どう調べれば良いのだろうか。オーシャンスノーなんてあれば容易に検索できるんだがな。