好奇心が強い。それは創作活動の延長線ともいえるが、生まれながらの性分であるともいえる。良くも悪くもなんて枕詞が付きそうなものだが、傍からすりゃ悪いの割合の方が高いようだ。
大学生になって半年が過ぎた頃、1人の女友達から連絡が来た。
彼女とは小学中学とそこそこ長い期間、親しくしていたひとりだ。グループでの付き合いだった故に、決して2人きりで遊ぶような関係ではなかった。
そして中学卒業以来、全くといって良いほどに関わりがなくなっていた。
既に訝しみつつも、グループ交友の幹事である可能性にかけてメッセージを開く。そこから先はトントン拍子のやり取りだった。
次の休日に2人で食事に行くこととなり、当日、待ち合わせ場所であるレストランへ向かうと先に来ていた彼女の隣には知らない女がいた。大学の同期だと紹介されたが、どうも2人の間にはよそよそしさを感じる。そして食事もそこそこに女は切り出した。
端的に言えば宗教勧誘だった。進学してから人間関係が難しくなった彼女はとある宗教にのめり込み、今日は幹部であるこの女を連れて自分を勧誘しにきたという。
女から逸話やご利益を聞かされ、近くにある聖域(事務所)にて入会手続きを頼まれた。
宗教自体は一旦置いておくとして、わざわざこんな騙すようなやり方で勧誘してくるような奴等なんて関わらない方が良い。帰るのが先決だ。誰も彼もそう思うしそうするであろう。
勿論、自分は二つ返事で彼女達について行った。前述の通り、好奇心が強いのである。
こんな滅多にない面白い体験、経験しておかない理由がない。肝試しで深夜の学校に侵入しようと誘われれば秒でついて行く性分なのだ。
ついて行った結果は随分あっさりとしていた。聖域も御神体といわれるものも大したことはなかった。面白さに関してはレストランで「じゃあ三大宗教も全て偽物なんですか」という質問に即答で肯定された時がピークだっただろう。
お祈りと入会書類を記入し、早々に解散した。
勿論、全て適当である。好奇心とリスクヘッジは両立するのだ。
こんな面倒事にこれ以上首を突っ込んでも何の面白みも得もないなら馬鹿正直に相手をする理由なんてない。何があっても自分だけは学校の警備員に捕まらないよう動きまわれるだけの小賢しさも生来の性分だ。
その後も彼女は他の友人も誘ったらしいが、元々グループを盛り上げるだけしか出来なかっただけに個人の連絡を怪しまれ、自分がタレ込んだ体験談を決め手に縁を切られたようだった。そして自分も彼女との関係を断ち切ってこの話はお終いとなる。
最後の締め括りとして、ひとこと。
猫を殺したくなければ窮鼠にさえ百の注意を払え。
理性でいくら意味のないことだと説いたところで、本能はやめてくれない。
御伽噺のように、洞窟の暗い奥の奥で討伐される日を待っていたい。
強い光は苦手だ。太陽光のみならず、車のライトにまで目が眩んで、頭が痛くなる。夏場は陽の光を反射するアスファルトにさえ気を付けなければならないほどに。
見てしまえば瞬く間に瞼の裏へ焼き付いてしまう。
まっすぐ自分へと向けられた一筋のそれはあまりにも目映く、すぐにでも逸らしたい意思とは反対に瞳孔は釘付けになってしまった。
思い出す度に頭がクラクラする。痛い。
貴方にも言っておけば良かった。
強い光は苦手なんだ。そんな顔しないでくれ。
もし自分が人間から産まれ育てられたのならと夢想する。
大嫌いな漢字の暗記さえ手を真っ黒にしながらひたむきに努力して成果を出していた自分なら、今でもあの勤勉さと集中力を保持していただろう。
愚痴を散々聞いた後でも塾へ行きたいと願い、優秀で真面目な友人に囲まれていた自分なら、それなりの優等生を続けられていただろう。
勇気を出して助けを求めることができた自分なら、今でも他人を信じ支え合えたのだろう。
大切な人の為に身を粉にできた自分なら、自分を大切にできただろう。
もし自分が人間から産まれ育てられたのなら、全てを終わらせようとなんて考えすらしなかっただろう。
パラレルワールドが実在するのか知らないが、きっと、もうひとつの物語は幸せなまま続いてゆくのだろうな。
紅茶の香水とやらを近年見掛ける。
どうやら多種多様にあるそうだ。最近では某ハイブランドがブラックティーの香りに変化する香水を出したとか。
偶然見掛けた試供品を、興味本位で嗅いでみた。
ティーパックから香るものよりも少しばかり人工的ではあるものの、確かにそこからは紅茶の香りがした。
元よりお茶の類いは好きだった。これは悪くない、寝香水に調度良いと香水を手に取りレジへと向かった。
そして就寝前、自室にて嗚呼しまったと頭を抱えた。
──これ、清涼作用のあるボディミストだ。
試供品にばかり気を取られて本体にでかでかと載っている「クール」の3文字に気が付かなかったのだ。
嗚呼、なんて馬鹿なことを。じきに秋が来るというのに、どう使えというんだ。
試しに腕へ振りかけてみる。爽やかなアールグレイの香りは暫くの間、愚か者を冷笑していた。