「あなたのもとへ」
夜明けが早くなる度に、冬も明けるのだと、寒く暗い季節が終わる気配を感じさせる。
にも関わらず、今日はかなりの寒さで、夜明けは早いが、気温は変わらないようだ。
違う地方では、季節外れの雪も降るらしい。
そんな最中、私は歩く。
目的があるのか問われれば、なんと答えれば良いのか分からない。
けれども、辿り着くかわからないものへと向かい歩いていく。
ここは雪こそ降ってはいないが、かなりの強風がごうごうと、私の髪やマフラーを巻き上げている。
海も近いからか、一等強い海風だ。
微かに磯の匂いを背負っている。
そんな強風に煽られて、数キロ先の大木も揺れている。
色んな方向へ、風に身を寄せ揺れている。
少ない葉が、これまた風にのって飛んでいる。
風が、羨ましく感じた。
どこにだっていけるではないか、と。
地面だけじゃない、海の上だって、空だって、どこにでも風は出現して、色んなものをのせてゆく。
葉やゴミから、形のない匂いだって、のせてゆける。
そんなことを思いながらも、道がひらけ、目の前には海が広がった。
この広大な海でさえ、風によって高波がたっている。
(こんなものだって、動かせちゃうんだな)
歩き続けていた足が止まった。
どんなに歩いても、歩いても、あなたのもとへは行けないのだと。
薄い希望をかけて、空を仰ぎ見る。
やっぱりあなたはいなくて、いつもより早く流れゆく雲と青空だけが見える。
あんなに高いところでも、吹かせているようだ。
ああ、風は羨ましい。どこだっていける。
私もいっそ、風になれたらあなたのもとへ、なんて。
馬鹿なことを考える。
せめて、あんなに遠くまでゆける風であれば、
何だって運べる風ならば、と大声で、できるだけ風に乗りやすいように意識して、めいいっぱい叫んでみた。
暗い部屋、手のひらサイズの画面の中には、
広大な海の写真が映し出されている。
地平線に続く海、雲ひとつない空の中、沈みゆく太陽。
日光が沈みゆく中で、空は青いような、オレンジのような、紫のようにもみえる不思議な色をしている。
遮蔽物がない海辺だからこそ、広大な不思議な空の色が強調されている。
小さな画面の中からでも伝わるこの景色に、実際はどんなものなのだろうかと、想像を巡らす。
雲ひとつない空模様だが、風は吹いているのか。
潮風の匂いはするのか。
波音はどんな感じか、草木が揺れる音も
一緒に聞こえるのだろうか。
視覚だけではなく、聴覚から嗅覚、色んな五感で感じてみたい、この景色を。
実際に自分の目で見ていないものを、果たして"見た"と言えるのだろうか。
まだ見ぬ景色へ、想いを馳せる。
いつか見てみたい、という気持ちをのせて。
幸せとは
幸せとは、その時々で変化すると共にその時の自分の感じようでもあると考える。
何の変哲もない、いつもの日常にふと幸せを感じる時もあれば、記念日といった特別な日に幸せを感じることもある。
好物を食べている時であったり、好きな音楽を聴いている時、友人や恋人、家族と過ごしている時など。
1月になり厳しい寒さの日々の中、温かさは幸せと直結しているのではないかとふと感じる。
寒い中から暖かい室内に入った時や
温かい食べ物、布団の中、人肌...そんなものと触れ合った時に温もりとともに幸せを感じる。
これが夏場だと、冷たいものに幸せを感じるのかもしれない。
幸せとは何か、大袈裟に考えなくとも些細なことであり、身近なものでもあり...感じ方は自分次第。
幸せになりたい、と願う人は多くいるし、生きてりゃそら幸せになりたいと誰もが思うだろう。
日々で心が暖かくなったり、ほっとした瞬間なんかに、これは幸せというものか、と少し思ってみると少しは気持ちが軽くなるんじゃないだろうか。
久しぶりに帰省した私は、
何となく近所を散歩してみることにした。
昔はよく色んな遊びをしたものだ、
と歩きながらその時のことを思い出していた。
川で魚を探したり、田んぼでカエルやオタマジャクシ
を捕まえたり、なんだかんだ活発だったな
と、休日はもっぱらスマホや外出になっている今の自分と比べてみる。
近所を走り回っていたあの頃からもう10年以上経っている。
なんだかんだ変わらないだろうと思っていた
予想とは裏腹にかつて遊んだ田んぼや広場が、
真新しい住宅街になっていて驚いた。
「あの広場、なくなっちゃったのか・・・」
ぼんやりながる先には駐車場、昔はこの広場で盆踊りや野球大会が繰り広げられていたのだ。
ちょっぴり切ない気持ちになりながらも、歩みを進める。
狭い路地の中、少し先には青と緑がみえる。
「確かここは・・・」
路地を出ると、シロツメクサの花畑が広がっていた。
春になると、よく花を詰んで冠や花束を作っていた。
「ここはあの時のまんまだな・・・」
あの時の記憶と違わない光景に、思わずほっとした。
花畑へ足を踏み入れる。
モンシロチョウが飛んでいる。
他にも、バッタやてんとう虫、
大人になった今では怖くて触れない昆虫たちも、
この時ばっかりは昔のように触れる気がした。
「いつまで待つんだろうか・・・」
カレンダーの大半を埋めるバツ印。
毎日寝る前、カレンダーにペンを走らせるのも
日常になったのもいつからか。
いつ来るのかわからない相手を待ち続けて数ヶ月、
なんて言ってるが、もうすぐ1年にもなる。
最近心なしか、ため息が増えた気がする。
待つのは得意な方だが、さすがの自分も堪えているようだ。
代わり映えのない毎日。あいつと過ごす日常はどんな風なのか、想像するのももう飽きたぐらいだ。
春夏秋冬、色んな想像をしてきた。
「1周回っちゃうぞ、もう、ちょっと飽きてきた...」
もうすぐ365日、色んな想像をしながら眠りに落ちてきた。書いたバツの数だけ、増えていく。
「来たからには、このバツの数を塗り替えるぐらいには思い出、作ってもらわないとゲンコツだ。」
めくったカレンダー、書いたバツの数だけ思い出に塗り替えられる日が来ると信じて、今日も私は眠りに落ちる。