つち

Open App
3/19/2025, 4:03:03 PM

「どこ?」

私は子供の頃、星を拾ったことがある。

家族で山へ夜景を見に行った時、皆は山から見下ろす夜景に目を奪われていたが、私はその上、上空に輝く星々に目を奪われていたのだ。
家族と少し離れたところで、上を見上げ、疲れてしまった首を休ませるために、下を向きながらぼんやりしていた時だった。
視界の片隅にぼんやりと光る何かが目に入った。

木の根っこ、雑草の中に鈍く光る、何かがあった。
それは、暗闇の中にあるにもかかわらず、見落としそうになるほどに小さな輝きだった。
だが、その時の私にはとても眩しく美しく光って見えた。
手にとってみると、少し温かいような、冷たいような、物体としてそこにあるのか、ないのか、よくわからない触り心地だったが、手のひらでキラキラと輝くそれから目が離せなかった。
自分だけの、宝物を手にした気持ちで、心が躍っていた。
それに目を奪われていると、自分の名を呼ぶ両親の声が聞こえた。
咄嗟にポッケに入れ込み、そちらへかける。

車の中、後部座席から窓の外を眺める。
いつもは退屈で、眠い帰り道だがポッケにある宝物のことを思うと、目が冴えていて、早く家に帰って眺めたい、という気持ちで頭の中はいっぱいだった。
これは自分だけの秘密で、宝物なんだ。
なんでも話したい、聞いて欲しいと思っていた自分の中に生まれた、初めての衝動だった。


あれから帰宅し、自室にてそれを取り出す。
場所が違えど、同じように輝いていた。
とりあえず、小瓶の中に入れてみる。
ランプのように光っている。
窮屈そうだとは思いつつも、それ以外に良い方法も思いつかないし、そのまま眺める。
出かけたこと、輝くそれを見つけた興奮で、そのまま眠ってしまった。


朝、ぼんやりと目覚め、一目散に小瓶を見る。
すると、光っていた何かは、消えており、ただの小瓶がそこにあった。
その時、初めて"喪失感"というものを、抱いた。
昨日のワクワクと、燃え上がるような興奮を、ピシャリ、とバケツで水をかけられ消されてしまったかのような。よくいう、胸にぽっかりと穴が空いた。
という表現の意味がわかったときだった。
その日ぼんやりとしたまま、一日を終えた。
あの何も無い、ただの小瓶になってしまったものを見るのも参ってしまって、リビングにいた。
寝る時間になり自室に戻ると、なんと、小瓶の中に輝くそれがあった。
あの時の興奮は、それと出会った時以上だったのではないか。
ぽっかりと空いた胸の穴が、それ以上に埋まったようだった。

ああ、私の宝物が、戻ってきた。
しばらく眺めていると、雨音が聞こえてきた。
晴れていたはずだったが、通り雨だろうか?
するとなんと、小瓶の中のから輝きも消えてしまったではないか。
再び私は混乱した。
喪失感よりも、混乱が勝っていた。
なんで?また、戻ってきたと思ったのに、どうして。

ザーザーと、雨音だけが部屋に響く。
雨が、降ったから?でもそれは一体なぜ…
悩みながらも、再び眠ってしまった。

朝起きるやはり輝きはなく、ただの小瓶だった。
この時私は、まだあの輝きはそこに居るという確信があった。
理由はないが、きっとまた現れる。
そうして夜になると、それはやはり現れた。
元々小さい光だったが、今日は更に小さい気がする。
なん気なしに外を眺めると、薄らと雲がかかっており、いつも光り輝く一等星の光も、小さく感じた。

そこで私は、ひらめいた。

この輝きは、星なのでは・・・?と。
星の赤ちゃんが、空から降ってきて、私が偶然見つけてしまった。
星だから、太陽が登っている時は見えなくて、夜になると現れる。
夜でも天気が悪ければ、見えなくなってしまう。
そうして、私は星を拾ったのだと、確信した。

その輝く星を、ハマル、と名付けた。
自分の星座である、牡羊座の恒星からとった名だ。

星の輝きとは、本当に美しく目を奪われる。
その日から、夜になると瓶の中のハマルを眺めるのが日課になった。それに天気予報も、気にするようになったのだ。
そんな日々が続き、季節は巡り、そろそろ秋の訪れる季節が来た。
いつも小瓶の中で輝いているだけのハマルが動き出したのだ。
ユラユラと、前後に揺れている。
日に日に動きは激しくなり、小瓶の蓋に体当たりしているような動きが見られるようになった。

私は何となく、ハマルとの別れが近いと、そう感じた。
ハマルと出会ってから、星のことを調べるようになったのだが、もうすぐ牡羊座が空に現れる時期が近づいているのだ。
ハマルは、本当に牡羊座のハマルで、空に戻ろうとしているのだと、確信した。
寂しいけれど、自分の星座がなくなってしまうのは悲しいし、何よりも空に戻りたそうにしているハマルを邪魔することが、できなかった。

いつも以上に動きが激しい日、私はようやく決意した。
その日は昼間から快晴で、夜になっても一段と星が光り輝いていた。大きなお月様も新月でそっぽを向いており、星だけが、いつも以上にキラキラと輝いている日だった。
私はベランダで、蓋を意を決して、蓋に手をかける。
あの時の興奮や、今まで過ごしてきた日々のことを振り返る。
小さな光だけど、私の日常に大きな輝きを届けてくれていた。
それに、手元にないだけで、空を見上げれば、いつだって、会えるんだから。

意を決して蓋を外すと、ハマルは凄い勢いで空へと飛んで行った。
まるで、流れ星のようだった。
そのまま、私はハマルを見失ってしまったが、あの時の喪失感はなく、無事元の所へ帰れたんだな、という安心感に包まれた。寂しくないのは、ハマルなりの恩返しなのだったのだろうか。
私の家は田舎といえども住宅街で、星は比較的綺麗に見えるが、細かな星々は見えにくい。
この時私は、もっと星がよく見えるところで、いつかハマルを見つけ出そうと決意した。
私の中で、その場所は、あの出会った山の頂上だと決めていた。



あれから数年、私は少し大人になり、あの時の山の頂上、ハマルを拾った場所にいる。
中々ここに来るまでに時間がかかってしまったが、ハマルを見つけるのだ、と。
どこにいるの、どこで輝いているの、 という気持ちを抱え、空を見上げる。

3/19/2025, 9:04:14 AM

「大好き」

3/17/2025, 5:45:45 PM

「叶わぬ夢」

3/16/2025, 5:22:57 PM

「花の香りと共に」

最近人気の花の匂いといえば、金木犀。
秋頃に花を咲かせる、小さくてオレンジ色で可愛らしいお花だ。
そして、香りもいい匂いだ。
雑貨屋なんかで、沢山の金木犀のハンドクリームや香水、ヘアケア用品を目にする。
非常に人気の花だ。

小さい頃、よく近所の家に咲いているのを見ていたし、匂いを嗅いでいたことを覚えている。

それと同時にもうひとつのことも思い出す。

おばあちゃんのトイレの芳香剤の匂いだったことだ。
トイレは近所の金木犀よりも身近な存在であり。
私にとって、金木犀=トイレの匂いになっている。

どうしようか、どうしてくれようか。
私も金木犀ブームに乗りたいのですが、どうしたら
トイレのイメージを拭えるのか。

今は匂いひとつで色んなことを考え、悩むことが出来ることを、幸福だと捉えておく。

3/16/2025, 9:24:02 AM

「心のざわめき」

Next