バレンタイン
はるか昔、極東にはバレンタインという日に、想い人にチョコを渡す風習があったらしい。
チョコとはとても甘く、そして少し苦いのだと噂に聞いた。
特に食べる機会も無かったので詳しくは無いのだが……
郵便受けに綺麗にラッピングされたチョコが入っていたのだから驚きだ。
こんな廃れた町まで来て、物好きがいたものだ。
また後で美味しくいただくとしよう。
待ってて
よーい、どん。同時に始めた私たちは、時に抜かして、時に抜かされて。
どちらかが置いていくことも無く、またどちらかが置いていかれることもなかった。
このままお互い高めあって、そんなことを考えて。気づいたら君はずっと遠くにいて、私の足は止まっていて。
それでも、それに気づいたなら。きっとまた、走れるから。
だから待たなくていい。君はずっと先を行け。必ず追いついて、そのうち追い抜いてみせるから。
そう意気込んで走ろうとして、盛大に転けた。
………やっぱり、少しだけ待ってて。
ずっとこのまま
布団にはいったまま。
暖房の前で寛いだまま。
友人と話したまま。
親と仲のいいまま。
当たり前の日常を当たり前に過ごせているまま。
ずっとこのままいられたら、は続かない。
続かないから、新しいずっとこのままが生まれる。
それでも、ずっとこのままであり続けるものもあるから。
それでも世界は随分と、変わってしまったように、
永久を望んで、望んだものを壊すのだろう。
柔らかい雨
雨は嫌いだ。雨が降ると道は混むし、匂いもきつい。雨の匂いが好きだという人も中にはいるけれど、どうしても僕はそれを好きになれないでいた。
そんな中、理想郷は完成した。雨が降らなくなった。否、雨は降っているのだ。必要なところだけに、局所的に管理された雨を降らせていた。
あんなに嫌っていた雨なのに、いざ無くなるとどこか物寂しい感じがした。
ポツポツと雨が降り始めた。綺麗に僕の周りにだけ降り注ぐ、柔らかくて優しい雨。望めばなんでも手に入る、そんな理想郷も案外悪くないのかもしれない。
理想郷
理想郷、誰もが思い描いたであろうそれとは全く異なる、厳重な管理の元でそれは実現した。
人は生まれながらにして悪性を持つ。その悪性を取り除くことによって全ての犯罪をなくし、また管理された庭で生活することで自然災害などもなくした。
そんな世界。それは、本当に理想郷と言えるのだろうか?
そんな疑問を抱えながらも、僕らはそこを、抜け出せずにいるのだ。