しあわせとは
「貴方が幸せであること」
「貴方が何事もなく一日を過ごせること」
「貴方の未来が輝いていること」
それが私達のさいわいです。
そう言って笑った奴を、俺は死ぬまで忘れないだろう。
あれから。
高校卒業資格を取得して。
英検やら漢検やらとって。
大学の見学会で人に酔って。
受験会場でも人に酔ってたら実力が発揮できねぇ!って
そこから同年代が多くいる場所の耐性つけるかって
なんか色んなイベントに参加して
同時並行でお嬢の護衛がなくても俺のメンタルを安定させようってしてたらしくて
そこそこ無難に乗り越えて
おばけ耐性もそこそこついて
週7から週3、週1から月2、月1、くらいまで怪異との遭遇が減って。
色々あったけどとりあえず、大学に進学できました。
眼鏡にも慣れた。同じ学科に居た五月君にはめちゃくちゃびっくりしたんですけどもたまたまらしい。本当か…?
その関係でちょっとばかしあの人たちとの縁は続いたけど、
2年になるとまじで会わなくなった。
五月君がめちゃくちゃ忙しくて捕まらないんだよな。
サークルの人に仲良いでしょ呼んでよって言われたけども。
教えてもらった携帯電話も全然繋がらない。
LINEも既読つかない。いやまぁ五月くんスタンプでしか返って来ないけども。取ってる講義も被らない。そんなこんなで疎遠になった。卒業式だけちょっと話した。
保護者枠で八ツ宮殿来てて。ちょっと老けてた。
言ったら「貴方は大きくなりましたね」って笑ってた。
初めて会ってから5年ちょいたってたし。身長伸びたし。
そうしてちょっと、寂しそうな顔して。
「我ら陰陽師集団白咲、尾上蓮殿の新たな門出を心より、祝福します」
そうして最後のお守りを俺に手渡して、去っていった。
オバケに追いかけ回されたあの日々に戻りたいとは絶対思わないんだけど。でもきっと、あの日々は俺にとっての青春だったんだって、そう思うよ。
日の出
わくだけ失礼しますー!
ことしのほうふ
「……とりあえず、大学の見学行って…いきたい大学決める…ぜ…?」
「尾上君が一人前、何を相手にしても逃げ切れるように鍛え上げる事ですね。抱負というか決定事項ですけれど」
「倒せなくていいのか?」
「それは私たち陰陽師の仕事ですわよ。尾上君は普通の人なので、安全圏まで逃げ切る事、必要であれば……尾上君の場合必要ですわね、随時陰陽師を呼んでください」
「やっぱ倒せた方がいいんじゃねぇの…?」
「そこまで修行するとなると陰陽師を選びませんと。門外不出ですのよ色々。一般人に公開できるレベルの事しかできませんわ」
「面倒くさいしやりづらいな」
「普通に生きていけるなら良い事ですのよ……あ、眼鏡かコンタクト、するならどっちが抵抗ないです?」
「脈絡ないな、何だそれ」
「尾上君は見える人ですから。元々の体質を捻じ曲げることは難しいですが呪具で誤魔化す事はできます、ので。」
見る事見られる事、それは一つの縁だと言う。
互いの存在を認識すること。
目と目があったら○○バトルって言うもんな。違うか。
怪異は縁を辿って危害を寄せる。
目が合うことが縁のはじまり。
なので目を逸らしましょう、だけど見えてると難しいから。
「見えなくなる道具?」
「霊的視覚遮断といいますか。そんな感じですわね」
「絡まれなくなる道具?」
「……絡まれにくくなる道具です」
「100%遮断ねぇの!?」
「白咲の技術力を持ってしてもここまでが限界ですのよー!」
「なんかねぇの!?霊を100%消滅できる札とか!塩とか!」
「お守りとかありますよ。定期的に交換に来てください」
「そんだけ!?」
「白咲としては結構譲歩してますよ今回……霊的視覚遮断、尾上君用の開発ですし」
「マジで!?」
「『尾上君の大学進学を応援する会』がめちゃくちゃ頑張ったんですよ!!」
「その会の存在初めて聞いたんだけどなにそれねぇちょっと」
「だから尾上君、頑張ってくださいね」
後で聞いたところによると、その会の人っていうのは怪異の被害で日常生活がままならないとか。集団の中で暮らすことが難しいとか。
「貴方は私たちにとって、希望のひかりなんです」
勝手に応援してるだけなんです。
勝手に夢を見ているだけなんです。
勝手に希望を抱いているだけなんです。
みんな、貴方が大好きです。
どうか負けないで。
君が元気で頑張ってる事が力になる人がいっぱいいます。
辛い時は無理しないでください。
私達に貴方の門出を祝わせてください。
未来の希望を、守らせてください。
いつか貴方が運命の人と出会って恋をして。
結ばれて、結婚して。子供が産まれて。
そうしていつか、沢山の人に囲まれながら一生を終える事ができたなら。
それが私たち陰陽師集団白咲の、ほんとうのさいわいです。
新年
「明けまして、おめでとうございます〜って誰もいねぇ」
「蛸嶋君がおるけどみえへんのん?」
「蛸嶋君おはよ、他に人いねぇの?」
「神社で大忙し」
「蛸嶋君は?」
「俺人見知りやから……」
「それで柳谷邸で薔薇の内職してんの…?」
「こたつあるしストーブあるしお前の警護って言えば融通きくし天国最高、今度Wi-Fi接続しよかな」
「すげぇ!ひとんちなのに図々しい!」
「Wi-Fi無しで現代人が生きていけると思うなよ」
「それはちょっと依存のレベルじゃない…?」
「5分圏外だと手が震えてくるだけやから」
「病気じゃない?」
「あとから五月も来る言うとったで」
「……神社の手伝い、不得意そうだもんね…」
「俺より得意やけど向き不向きってあるからな」
「でも結構多様性?に優しいんだなここ」
「対応力がたかいんや。俺だって奴だって埋め合わせとかしとるんやで」
「あ、俺4日は商店街の福引の手伝いいくけど蛸嶋君は?」
「……応援してる」
「おっけ」
後で差し入れを持って行こう。
蛸嶋君は寒い寒いとぶーたれていたが、しっかりついてきたのでやっぱ俺の警護だなぁと思ったり。
ひとのやさしさに支えられていることを実感する日々。
良いお年を
1年の計は元旦にあり。
とは言うが。
「元旦を万全にするために今年の汚れを大晦日で全部落とそうってのは無茶じゃねぇかな」
「尾上、手を動かす。愚痴こぼす、部屋綺麗、ならない」
「へいへい」
「元気ない。ヘイはこう。hey!!」
「真顔でやるテンションじゃねぇよそれ」
「お前ら割合仲良いやん」
「お部屋の主チーっす」
「チー」
「蛸嶋君てよべやァ!そのネタ年越したらお前らのせいやぞ」
「普段から掃除しない蛸嶋君の自業自得でしょ」
「怠慢反対、怠慢反対」
「ええいやかましい、あと10分したら休憩!」
「それ1時間前にもやったよ」
「サボり過ぎ、ノー」
ごじつかひつします