ことしのほうふ
「……とりあえず、大学の見学行って…いきたい大学決める…ぜ…?」
「尾上君が一人前、何を相手にしても逃げ切れるように鍛え上げる事ですね。抱負というか決定事項ですけれど」
「倒せなくていいのか?」
「それは私たち陰陽師の仕事ですわよ。尾上君は普通の人なので、安全圏まで逃げ切る事、必要であれば……尾上君の場合必要ですわね、随時陰陽師を呼んでください」
「やっぱ倒せた方がいいんじゃねぇの…?」
「そこまで修行するとなると陰陽師を選びませんと。門外不出ですのよ色々。一般人に公開できるレベルの事しかできませんわ」
「面倒くさいしやりづらいな」
「普通に生きていけるなら良い事ですのよ……あ、眼鏡かコンタクト、するならどっちが抵抗ないです?」
「脈絡ないな、何だそれ」
「尾上君は見える人ですから。元々の体質を捻じ曲げることは難しいですが呪具で誤魔化す事はできます、ので。」
見る事見られる事、それは一つの縁だと言う。
互いの存在を認識すること。
目と目があったら○○バトルって言うもんな。違うか。
怪異は縁を辿って危害を寄せる。
目が合うことが縁のはじまり。
なので目を逸らしましょう、だけど見えてると難しいから。
「見えなくなる道具?」
「霊的視覚遮断といいますか。そんな感じですわね」
「絡まれなくなる道具?」
「……絡まれにくくなる道具です」
「100%遮断ねぇの!?」
「白咲の技術力を持ってしてもここまでが限界ですのよー!」
「なんかねぇの!?霊を100%消滅できる札とか!塩とか!」
「お守りとかありますよ。定期的に交換に来てください」
「そんだけ!?」
「白咲としては結構譲歩してますよ今回……霊的視覚遮断、尾上君用の開発ですし」
「マジで!?」
「『尾上君の大学進学を応援する会』がめちゃくちゃ頑張ったんですよ!!」
「その会の存在初めて聞いたんだけどなにそれねぇちょっと」
「だから尾上君、頑張ってくださいね」
後で聞いたところによると、その会の人っていうのは怪異の被害で日常生活がままならないとか。集団の中で暮らすことが難しいとか。
「貴方は私たちにとって、希望のひかりなんです」
勝手に応援してるだけなんです。
勝手に夢を見ているだけなんです。
勝手に希望を抱いているだけなんです。
みんな、貴方が大好きです。
どうか負けないで。
君が元気で頑張ってる事が力になる人がいっぱいいます。
辛い時は無理しないでください。
私達に貴方の門出を祝わせてください。
未来の希望を、守らせてください。
いつか貴方が運命の人と出会って恋をして。
結ばれて、結婚して。子供が産まれて。
そうしていつか、沢山の人に囲まれながら一生を終える事ができたなら。
それが私たち陰陽師集団白咲の、ほんとうのさいわいです。
新年
「明けまして、おめでとうございます〜って誰もいねぇ」
「蛸嶋君がおるけどみえへんのん?」
「蛸嶋君おはよ、他に人いねぇの?」
「神社で大忙し」
「蛸嶋君は?」
「俺人見知りやから……」
「それで柳谷邸で薔薇の内職してんの…?」
「こたつあるしストーブあるしお前の警護って言えば融通きくし天国最高、今度Wi-Fi接続しよかな」
「すげぇ!ひとんちなのに図々しい!」
「Wi-Fi無しで現代人が生きていけると思うなよ」
「それはちょっと依存のレベルじゃない…?」
「5分圏外だと手が震えてくるだけやから」
「病気じゃない?」
「あとから五月も来る言うとったで」
「……神社の手伝い、不得意そうだもんね…」
「俺より得意やけど向き不向きってあるからな」
「でも結構多様性?に優しいんだなここ」
「対応力がたかいんや。俺だって奴だって埋め合わせとかしとるんやで」
「あ、俺4日は商店街の福引の手伝いいくけど蛸嶋君は?」
「……応援してる」
「おっけ」
後で差し入れを持って行こう。
蛸嶋君は寒い寒いとぶーたれていたが、しっかりついてきたのでやっぱ俺の警護だなぁと思ったり。
ひとのやさしさに支えられていることを実感する日々。
良いお年を
1年の計は元旦にあり。
とは言うが。
「元旦を万全にするために今年の汚れを大晦日で全部落とそうってのは無茶じゃねぇかな」
「尾上、手を動かす。愚痴こぼす、部屋綺麗、ならない」
「へいへい」
「元気ない。ヘイはこう。hey!!」
「真顔でやるテンションじゃねぇよそれ」
「お前ら割合仲良いやん」
「お部屋の主チーっす」
「チー」
「蛸嶋君てよべやァ!そのネタ年越したらお前らのせいやぞ」
「普段から掃除しない蛸嶋君の自業自得でしょ」
「怠慢反対、怠慢反対」
「ええいやかましい、あと10分したら休憩!」
「それ1時間前にもやったよ」
「サボり過ぎ、ノー」
ごじつかひつします
1年間を振り返る
「去年の俺何してたか覚えてねぇ」
「私は毎年ほぼ同じですので逆に覚えていませんわね」
「『ザ・師走』って感じの忙しさだったな」
「尾上君は中学3年生だったのでしょう、宿題とかクラスの友達とクリスマスとかあったのではないのですか」
「友達とかいねかったからわからん」
「……左様ですか」
「兄ちゃんとケーキ分けたり肉分けたりはしたな」
「あぁ、あの方…お元気ですかね」
「元気だろ、あの人10トントラックと正面衝突して無傷だし」
「人間ですか?」
「近所の人に鉄人って呼ばれてた」
「強すぎる……」
「とりあえず来年も引き続き護衛シクヨロでーす」
「多分夏頃には修行明けて独り立ちですわよ」
「……つまり?」
「大学受験、頑張ってくださいね」
「………………ウス」
当たり前だけど、別れが近づいている。
半年前の自分なら両手をあげて喜んだ。
妙な居心地の良さをしった今、少し寂しく感じるのは、
随分自分勝手だよなぁと思うのだった。
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漠然としていた未来がだんだん定まってくると焦るよねって話
みかん
「……お行儀が悪いですのよ」
「あ?」
「蜜柑の皮、ぼろぼろです」
「け。なんで間食の仕方までやいやい言われなきゃなんねぇんだ」
「丸呑みも危ないですのよ!一房ごとに分けた方が顎にいいです」
「俺の顎はあんたほど軟弱じゃねぇもんで」
「蜜柑の汁が口の端から飛び散るのが汚いんです!」
「知るか、飛び散るような距離にいるのが悪い」
「片付けもしてください自分が散らかしたんですから!」
ごじつかひつします