キャンドル
「怖がりを自覚していますのになぜ百物語をやろうと思ったんですの?」
「スリルを味わいたくて……」
「よし、お嬢の護衛無しで夜の学校一周してこい」
「命の危険が付き纏うやつはちょっと」
「我儘め……」
後日加筆します
たくさんのおもいで
積み重ねたそれらが、私の財産であり、私の全てである。
まずは枠だけ失礼します!
ふゆになったら
「寒い」
「大丈夫ですか?かき氷飲みます?」
「腹壊して寝込め」
「うーん美味しいですのに…」
11月の半ば、学校帰りのコンビニでフリーズドリンクをごくごく飲める女子って何者だよ。陰陽師だよ。聞いてねぇよ。多分関係ねぇし。
「スカート寒くねぇの…?」
「強い靴下ですので」
「俺も同じの買おっかな…」
「色もたくさんありますわよ!貴方の好きなピンクもありますわ」
「タイツ初心者にはちょっと厳しいぜその色は」
「好きな色は気分が上がりますのよ」
「闘牛の牛かアンタは」
「喧嘩ならば言い値で買いますわ」
「だって流石にピンクはねぇよ」
「流行りの色にもよりますけど!探せばありますわよ…!」
「トイレどうすんだよピンクの江○爆誕だろ!!」
「採用!!」
「俺もちょっと想像して面白いなと思ったけどダメだろ!!」
採用!じゃねぇんだよ。
「にしても厚着はするべきですわ」
「俺風邪引いたことねぇし大丈夫だろ…ッくしゅん」
「引き始めでは?」
「今のはしゃっくりだ」
「風邪では?」
「しゃっくりだ」
「そこまでして意地を張らずとも…」
「今から厚着したら冬が乗り越えられねぇ!」
「風邪引く前に着込みなさいな」
「風邪引いたことねぇもん」
「石蕗が言ってました、お馬鹿様は風邪引いてることに気がつかないって」
「うるせ——-!わかってんよ引き始めです!」
「つまり尾上君は馬鹿じゃない?」
「そうだよIQ 8億あるぞ俺」
「発言が既にIQ5とかですわよそれ」
「んなことねぇよ……ッビャクしょい、」
「わっしょいの進化系みたいなくしゃみでましたわね」
「これはしゃっくりだ」
「そんな馬鹿な…」
「……俺は絶対、12月になるまでヒー○テックもタイツもカイロもレッグウォーマーも、しないからな————っ!」
「なぜ……」
「負けた気がする」
「やっぱりお馬鹿様なのでは」
「うるせぇ俺はIQ8億じゃい…」
「はいはい、とりあえず今日は薬飲んでねますわよ」
お嬢のタイツはそこまで地厚いタイプではなくオシャレ用の奴です
尾上くんは季節の変わり目に毎回体調を崩すタイプ
筋肉がないので芯まで冷える
お嬢は風邪知らず はちみつ生姜湯が好き
はなればなれ
「お嬢の婚約者クソじゃね」
「…………椿様ですか。クソ野郎ですよ」
先月、お嬢の婚約者、椿京志郎なる奴を知った。
一週間ほど前からお嬢がやけに楽しそうにしていたから、何かあるのかと聞いたらお茶会だと。今度こそ仕事を調整したからいけるはずだと。前々から会えないか、と言う話はお互いにしていたらしい。ただ結局どちらかの都合が合わず、会えない。
それが10年。なんかの呪いじゃね。
俺の体質どうこう言ってる場合じゃなくない?
幸運の神様に見放されてるとしか思えない。
いや別に神様信じてねぇけどよ。
待って今石蕗さんクソ野郎って言った?
「ごめんてっきり『他人の婚約者をそう簡単に貶す発言をしてはいけませんよ』とか言われると思ってた」
「言うわけないでしょう」
「だって石蕗さんお嬢命じゃん!!お嬢が大好きな執事じゃん、いやなんか変だな、確かにこの間椿さんはお嬢が楽しみにしてたお茶会来れなかったけどわざとじゃないでしょ、俺は『椿様も事情があって来れなかっただけで、お嬢を思う心は本物ですからそのような事を仰らないでほしい』的な事を言われると思ったんだよ」
「お嬢様を悲しませた人間に何故そのような事を言わねばならないのか、理解に苦しみますね」
「怖いよ目が座ってるよ」
「ははは、お嬢様が許せばあんな男ははは」
「お嬢の前に法律が許してくれない奴だよ目を覚まして石蕗さん!?」
「法、律……とは……?」
「誰か———————-ッ」
スマホもタブレットも使いこなす石蕗さんだけど今いくつだっけ、70?政治家だとそこそこだけど正直おじいちゃんだよな。
見た目若々しいからあんまり意識した事ないけど。
「ボケた訳じゃありませんよ全く……」
「良かった…」
「ただお嬢様を悲しませた男を心底憎んでいるだけです」
「お嬢っ、笹本さん、誰かーーッ石蕗さん止めて!俺じゃ役不足!!」
「そこは力不足の間違いでしょう」
「力不足———————————————ッ」
ちなみにここは柳谷邸談話室。
陰陽師専用宿屋と化している柳谷邸の共用スペース。
そこそこ声が響く。のでまぁ誰か来るよなこんだけ騒げば。
「どうしたんですか大騒ぎして……」
「お嬢—————————ッ助けて——————ッ椿さんが消される!!」
「石蕗、ダメですよ」
「はいお嬢様」
「だって貴方私より先にお父様やお母様の所に行くでしょう、お茶会欠席くらいで京志郎様を責めるのはお門違いですわよ」
「ヴッ」
「お嬢—————-ッ」
慣れた具合で渾身の一撃。
石蕗さんは胸の辺りを押さえたまま動かない。
エッ心臓発作とかじゃないよな?持病の○○?聞いてないけど大丈夫?だっておじいちゃんだぜこの人。
この間俺というオバケ吸引体質が原因で起こった神隠し(未遂)、決着つけたのこの人だけど。悪霊にコブラツイストかけてたけど。
「お嬢様……石蕗はお嬢様の最期の時まで隣にいます……いさせてください……後生ですから……」
「良かった生きてる」
「石蕗大丈夫ですよ、ちゃんとできますよ、自慢の私ですわよ」
「…………お嬢様ぁ……」
「石蕗が安心できるよう私も頑張っていますからね」
それはそれとして椿様をとっちめます、はいはい、じゃあ私からの伝言もよろしくお願いしますね、とお嬢は返す。
「京志郎様、次のお茶会楽しみにしております、とでもお伝えくださいな」
ぽかんとする俺たちに構わず続ける。それだけ?
「約束は何度でも。会えない時間が愛を育てるって言うじゃないですか」
これだけ代わりに怒ってくれるひとがいるので、怒る必要ありませんし。
「それに地獄に落ちる時も一緒なので」
「ねぇ石蕗さん念のために聞くんだけどお嬢って愛が重いやつ?」
「そうですよ知らなかったんですか」
とりあえずまぁ、平和ならいっか。
オチとかないよ。そんな日もあるよ。
この物語のオチは多分、お嬢が結婚式で幸せに笑ってる所だと良いな。
こねこ
ちょっと雨が降りそう、そんな昼下がり。
柳谷邸の門が静かに開かれた。
「なぁ少年、野良猫保護したんだけどこの辺動物病院とかある?」
大変申し訳ない、と顔に書かれた矢車殿が申し訳なさそうに玄関で立ち往生。珍しい。いつもは普通にずかずか上がるのに。
陰陽師専用宿屋みたいなところあるからなここ。
しかしこの人がこんなに恐る恐る、ってのは本当に珍しい。
何かあるのかと思えば矢車殿の着物の袖のところ(袂って言うらしい)からもぞもぞと顔を出す白い毛玉の生き物。
「エッ何うわっちっっさ!!!子猫じゃん!!」
「河川敷で見つけてよ……悪い、本当は寄らないつもりだったんだが」
「何で?こないだスマホ忘れてったの矢車殿だろ?取りに来たんじゃないの?」
「そうだよスマホ取りに来たんだよ。この辺詳しいつもりだけど流石に知らない場所にスマホなしでは行けねーわ」
「忘れ物入れにあるから取ってきてあげようか?猫ちゃん抱いたまんまじゃやり辛いでしょ」
「頼む、誰にも見つからないうちに早く」
「マジで珍しいことづくめじゃん、何?なんかあんの?」
「良いから早く持ってこいスマホ!お菓子買ってやるから」
「何歳児用のお願いだよそれ。」
かひつします