今頃、あの子と彼は笑いあっているのだろうな。
待ち合わせだと示したこの場所に、
彼は現れなかった。
丁寧に包んだこの気持ちも
私の中にある、ありとあらゆる言葉の引き出しを
開けては閉じてを繰り返して綴った想いも
あの子の笑顔には適わないのだろう。
私が涙を落としたこの瞬間
ここではない、どこかで彼は笑うんだ。
「ここではない、どこかで」
怖がりな私じゃ伝えられないこの想いを、
ぽつんと1人、風にとかして飛ばした。
風と、言葉と一緒に、この辛い気持ちも
飛んでいったら良いのにと、今度は涙が零れる。
いっそこと、
彼か私がどこか遠くへ飛ばされてしまえば良いのに。
そうすれば、あなたのこと忘れられるのに。
そんな言葉を風に溶かしていると、
彼の声が聞こえた。
風にとけない、
真っ直ぐ私の耳に届く
聞けば聞くほど胸が疼いて辛い、あなたの声。
そんなあなたの紡ぐ言葉は
私の言葉をとかした風と、私の泣き声に妨げられて
上手く聞こえなかった。
「届かぬ想い」
彼の旅が、どうか上手く行きますように。
彼が旅先で病気しませんように。
彼が食べるものに困りませんように。
彼が寝るところに困りませんように。
彼が着るものに困りませんように。
彼が傷つくことがありませんように。
彼が困ることがありませんように。
彼の旅がどうか充実したものになりますように。
彼がどうか無事に帰ってきますように。
彼が帰ってきたら、何か私に伝えてくれますように。
その何かが、幸せなものでありますように。
彼と私で、幸せになれますように。
「神様へ」
拝啓
遠くの空へ飛び立って行った貴方へ
元気にしていますか。
病気はしていませんか。
寂しい思いをしていませんか。
そちらの空は綺麗ですか。
こちらの空は、綺麗です。
毎日違う顔を私に見せます。
でも、毎日見るのは
見たことの無い空の顔でも、
思い出すのは、共に空を眺めた貴方の横顔なのです。
貴方が一緒になってようやく、
私の空は完成したように、私は思います。
毎日穏やかに、時に荒れ狂う空ですが、
そこを伝っていけば、貴方の横顔がまた
見られるでしょうか。
貴方の横顔は常に、この空の傍にあるのでしょうか。
こちらの空と、そちらの空は
繋がっているのでしょうか。
そう考えても答えは分かりませんが、
そう思うようにすると少し、
心が軽くなります。
またいつか、美しい空と共に貴方の横顔が
見られる日を夢見て、今日も1人、夕日を眺めます。
またいつか、お会いしましょう。
敬具
「遠くの空へ」
もう好きじゃない。
嫌いではないけれど、
無関心でもない。
数日前まで俺の彼女だったのに、
いつの間にやらあの男と一緒に笑うようになって。
彼女にすら満足させてやれない俺に
知らぬ間に知らぬ男のもとへ行く彼女。
失望したのに目で追う俺と
もう俺の事なんて視界にすら入らぬ彼女。
何でこんなにも違うんだろうかと
考えてもぐちゃぐちゃとするばかり。
「言葉にできない」