雨に佇む
「雨が好き」と言っていた。
汚いところを洗い流してくれる気がするらしい。
空は平等だ。
有象無象を気にしない。
だけど今だけは───
坂道を公園に向かって駆け上がる。
この公園は夜景が綺麗で、夜によく来ていた。
しかもここは、夕焼けも綺麗なのだ。
多分、近所でいちばん綺麗な場所だ。
橙が空を青黒く染める。
思いっきり息を吸い込む。もっと。もっと。
「約束したじゃんかーー!!!絶対守るって!忘れもしないって!
言質もとらせたくせに!ふざけんなぁぁ!!」
語彙が足りない。裏切ったやつに言う言葉が足りない。
「言ってたじゃん!アイス食べに行こうって!写真いっぱいとって、
アルバムを作ろうって!言ったじゃん!なんで!なんでぇ…」
なんでいなくなったの?突然いなくなるなんて、悲しいよ。
雨が好きだと言っていた彼は、私の涙を雨で拭き始めた。
周りから見えないように、誤魔化すように。
サラサラした細雨だった。爽やかで、優しくて。
ゲリラのような別れも、うねった私の頭も、流すように。
これが彼の答えなのだ。優しい彼の気持ちなのだ。
またひとつ彼のことを知れた気がした。
あの雨が、私のために降っているように感じたのは、気の所為ではないだろう。
私の頭も、時間も、悲しさも全て洗い流してくれた。
私も雨が好きだ。背中を押してくれる気がするから。
私の日記帳
1日ひとつは良かったことを書く。
そう決めて書き始めた日記帳。
だが、私の意思は弱いもので。
いつしか出来ていたのは、遺書だった。
向かい合わせ
右と左は向かい合わせ
上と下は向かい合わせ
前と後は向かい合わせ
白と黒は向かいあわせ
だけどどれも隣り合わせ
やるせない気持ち
上手くいかない。
勉強、ゲーム、運動、イラスト、ファッション、料理
右腕を大きく振りかぶった。
目の前にはいつも使ってる枕。
横からぬいぐるみが見ている。
なぜこっちを見るのか分からない。
そもそも見ていないだろう。
ぬいぐるみだから。
それでも何かを訴えてくるような、何かが見ている。
視線が気になって落ち着かない。
右腕を下ろして、電気を消した。
海へ
学校帰り。今日から夏休み。
急に海に行くことになった。
着いて荷物を投げ捨てながら砂浜を走る。
叫びながら走って飛び込む。
波に足をすくわれながらも、思いっきり振り返って笑う。
「1回濡れちゃえば何も怖くないから!!」
今を全力で生きる。
今を振り返って、尊さを感じるのが青春なのだ。