どこまでも続く青い空
……死のうと思った。
死ぬほど辛いわけじゃない。周りが死んだわけじゃない。ただ、疲れたんだと思う。
やりたいこととできることが全く違うように感じていた。やりたいことができる能力なんてなかった。自分では努力したつもりだったけれど、才能は応えてはくれなかった。
ヒーローになりたかった。誰かを守りたかった。何があっても負けない圧倒的な力、凪いだ海のような思考、ほんの少しも歪まない正義感、全部欲しかった。そんなこと叶うわけがなかった。ひとつだけでもと願った。でも欲張ったから、どれも得られなかった。そもそも、ヒーローなんていないと最近になって気づいてしまった。
カメラマンになりたかった。世界を切り取りたかった。本当にこんな光景があるのかと聞かれたかった。この世界は綺麗なものだと知って欲しかった。誰かの幸せを記録したかった。木枠に納めて、幸せを形にしたかった。そんな一瞬との出会い方がわからなかった。みんな感性が違うことを知った。世界に比べて自分はちっぽけだと気づいてしまった。
作曲家になりたかった。頑張れって伝えたかった。みんなに夢を叶えて欲しかった。一生懸命な人を応援したくなるのは、自分が折れた経験があるからだ。そんな人たちも応援したかった。歌詞を書くには成長しすぎたと思った。メロディは空を飛ばなかった。折れた経験を憂うことしかできなかった。一生懸命なんてもの忘れてしまっていた。
夜風が気持ちいい。少しひんやりとしている。澄んでいる空気に虫の音が響いている。今を生きることをひたすらに考えている中、そんな綺麗なものにどう出会ったのか聞いてみたいと思った。叶わないことは知っていた。死に際の夜景は嘘のように綺麗だった。
足元にある壮大な深い青に覆われながら、飛んだ。
風船が割れるような音がした。
声が枯れるまで
泣いてもいいよ
そう言ってくれた
私もそうしたい。
いつか泣けたらいいなぁ
秋晴れ
乾いた空気を光が満たす。
木々は寒さと正反対の暖色をまとい、太陽がその温かさをさらに増加させている。
冬が近付いてきているけれど、その日の主役は間違いなく秋だった。
トレンドのパステルカラーを身につけた君は楽しそうに今後の予定を話している。
彼女もまた、今日の主役。
楽しそうに笑っているところを見ると、自然と温かい気持ちになり、たまに喋りすぎていないか確認してくる。
自分がどれだけ汚く感じても、今の彼女を形作る経験として存在しているならば、少しは好きに思えた。
彼女の話を聞くのは好きだ。
あの笑顔で、あんなに軽快に言葉を発するのに、一つ一つの言葉の重さはしっかりとある。
妙にはっきり聞こえるのに、やたらとリラックスできる。
身振り手振りの多さが、彼女が頑張って会話をしていることを感じられて、つい笑ってしまう。
やはり、優しい眩しさは他のものすら綺麗に見せる。
私はこの日常がたまらなく愛おしい。
忘れたくても忘れられない
憎めども憎みきれない。
それがあなた。
抑えたくても抑えられない。
それが恋心。
忘れたくても忘れられない。
それが想い出。
生きたくても生きられない。
それが私。
鋭い眼差し
自分らしく生きる。確固たる自我を持って生きている人がいる。そんな人達はいつも、毎日が幸運の連続であるかのように目が輝いているのだ。
本当に幸せなのは、小さな幸せに強く反応し、大きな悲しみを受け入れ、打ち勝つことが出来る人だと思う。それでも、いつまでもその幸せに飽きない訳では無いだろう。受け入れるのは限界がある。打ち勝つ力も有限だ。
なのになぜ、いつまでも幸せそうにしているのだろうか。なぜそんなにも眩しくなれるのか。どうしてそんな人達に惹かれるのだろうか。
私には分からない。分からないから、その眩いだけのはずの視線が、私を突き刺し続けるのだろう。