いちご

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君の名前を呼んだ日


ずっと心にぽっかりと穴が空いたままで、会いたいとどうしても思ってしまう。今願ったところで過去は変わらない。

不幸な交通事故─殺人だった。なぜ酒を飲んだバカな名前も知らないじいさんに貴方の命を奪われなければいけないのか。真っ赤になった貴方の手がだんだんと冷たくなって、最愛の人が死ぬところを見た。2度と会えなくなってしまう…。本当に大切な人。降り始めた雨に貴方の生きた証が洗い流されていく。泣き叫ぶ事も出来ずに、ぼぅっとその光景を眺めていた。
あの時、もし君が先に行くのを止めていれば。もし一緒に行っていたのならば。その未来があるのなら、パラレルワールドでもマルチバースでも信じてやるのに…

君がいなくなってからもう数年経ってしまった。
動かない君の手を握ったまま、乗り越える事も出来ずに惰性で生きてきた。

今朝、食器棚を開いたら形見のコップが粉々に砕けているのを見つけた。
そういえば、強化ガラスは細かな傷でも突然割れてしまう事があるという注意喚起をどこかで見たことがある。

ここがもう、丁度いいのかもしれない。
君を探しに行こう。もし君を見つけられたら、そしたらその時はまた、君の名前を呼べるのだろう。

5/27/2025, 8:20:25 AM