雨に佇む
「雨が好き」と言っていた。
汚いところを洗い流してくれる気がするらしい。
空は平等だ。
有象無象を気にしない。
だけど今だけは───
坂道を公園に向かって駆け上がる。
この公園は夜景が綺麗で、夜によく来ていた。
しかもここは、夕焼けも綺麗なのだ。
多分、近所でいちばん綺麗な場所だ。
橙が空を青黒く染める。
思いっきり息を吸い込む。もっと。もっと。
「約束したじゃんかーー!!!絶対守るって!忘れもしないって!
言質もとらせたくせに!ふざけんなぁぁ!!」
語彙が足りない。裏切ったやつに言う言葉が足りない。
「言ってたじゃん!アイス食べに行こうって!写真いっぱいとって、
アルバムを作ろうって!言ったじゃん!なんで!なんでぇ…」
なんでいなくなったの?突然いなくなるなんて、悲しいよ。
雨が好きだと言っていた彼は、私の涙を雨で拭き始めた。
周りから見えないように、誤魔化すように。
サラサラした細雨だった。爽やかで、優しくて。
ゲリラのような別れも、うねった私の頭も、流すように。
これが彼の答えなのだ。優しい彼の気持ちなのだ。
またひとつ彼のことを知れた気がした。
あの雨が、私のために降っているように感じたのは、気の所為ではないだろう。
私の頭も、時間も、悲しさも全て洗い流してくれた。
私も雨が好きだ。背中を押してくれる気がするから。
8/27/2023, 12:37:22 PM